#コムロウイの花火_nana
🐾ロンド/??(おめが)
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深い夜、深い森、深い闇の間。旅の妖精は一人、森の入り口近くの木の上で街の明かりを眺めていました。
煌々と輝く光の揺れは温かく、旅の妖精がいつも慣れ親しんでいる優しい明かりです。それと同時に、この世界が自らの帰るべき場所であるという想いが強くなる光でもありました。故に、やはりこの世界には眩しくあって欲しいとも。
ふと、彼は森の入り口に誰かが佇んでいるのを見つけました。どうやら幼い少年がたった一人で、こんな鬱蒼とした森を見つめているようです。旅の妖精は彼をじいと、長く、長く、上から見下ろすように見つめました。
旅の妖精は思います。成程、呼ばれたのは彼だったか、と。
「少年」
「……え?」
ふいに旅の妖精は木の上から飛び降りて、少年の前へと踊り出ました。勿論妖精の姿ではなく、人間の姿を纏ってからです。この森の妖精たちの中で唯一、旅の妖精は人間の姿を纏えることが出来ました。これも、加護故の力です。
おそらく人に話しかけられるなどと思っていなかったのでしょう。少年はぽかんとした表情で目の前の人間を見上げていました。旅の妖精もまた、少年をまじまじと見つめてから、また成程、と心のなかで一人ごちます。
彼はきっと好かれるだろう。特に、双子の妖精たち辺りには。
「ここが禁忌の森だと知らずに立ち入ろうとしているんじゃないだろうな」
勿論、そんなことは一つも口には出さず、旅の妖精は威圧を込めて少年へと言葉を投げかけます。何せ彼が呼ばれたとはいえ、それは今ではないのです。もう少し後でなければ困ってしまうのです。
少年はその驚きの表情から一転して、はっと顔を強張らせました。大人に叱られると思ったのでしょう、小さく「ごめんなさい」と呟いた少年は、踵を返して逃げるように立ち去ろうとしました。旅の妖精はその小さな小さな背中を見つめながら、思い出したかのように少年を呼び止めました。
「お前」
「……?」
「遅からず、来るだろうよ」
「……何、が?」
「理由が。此処に立ち入るだけの、大きな理由が」
そう投げかけた旅の妖精の言葉は、深い夜と、深い森と、深い闇の間へ紛れるように。それでも少年の心へ刻まれるように、残ったのでした。
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