guest2: Noisy
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guest2: Noisy
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客の到来はいつも突然だ。それもそう…ホテルを望んで世界線を飛んで来れるものは殆ど居ない。「N」に魅入られた者が流れ着く…そんなシェイドの言葉はきっとどのスタッフも耳にしていないのだろう。
「予約表なんてものがありゃありがたいんだがな…」
少し強い日差しと閑散として寂しいロビー。詰まらなさそうにヴィレムはボヤいた。
「それは確かに…ハビエルとイザベラのロザリオ組が居ない時の来店程困る事はない…僕もヨルも接客出来ないし」
「接客なら俺が居るだろぅ」
ニタァと笑う顔はまるで無垢な子犬だが…ロゼはため息をつく。
「僕らは魔女に魅入られ、神に嫌われてるんだ。僕らは普通に出来る事を一つ神から取られてる。だから、あの二人の補佐しか出来ない…僕もそうだがヴィレムも『何か』出来ないんだろ?」
ヴィレムの苦笑いだけが帰ってきた。
「…まぁ、僕はずっとこのまま客が来なくてもいい。オーナーから頼み事される事も無くなるしな」
ロビーに飾られたライトは全て潔癖症のロゼの手で埃一つ無くなっている。面倒な頼まれ事を終えたロゼが自室に戻ろうとした瞬間、エントランスに足音が聞こえた。
「…ふーん、凝ったデザインの…カフェにしてはデカイな。…ホテル…?この辺りでこんなホテルなんて建ってたかな?会社周辺で知らない店なんてないと思ったのにな」
中性的で気だるげな声。恐らく女性だろうか…手には板のようなものを持っていて、人差し指でその板を撫でたり叩いたり…
「…は?GPSが機能しない?…待ってよ、携帯買い換えたばっかなのに…最悪」
「何なに?そんな板よりさ、このホテルに用事でしょ?俺らも暇してたんだよね」
「ちょっ…強引な店員だな。…え!?」
ヴィレムは嬉しそうに尾を振りつつ女性をホテルのロビーへと導いた。女性はヴィレムの姿をまじまじと見ている。
「尻尾…?それに耳も…コスプレイヤーか何か?…ひ!」
女性が気配を感じヴィレムから目を逸らす。その先には半透明の体を揺らす老人が笑顔で立っている。
「オーナー、彼女は客なの?ここをホテルだとも分かってない様だけど…」
ロゼは女性とヴィレムの姿を白けた目で見つめながら問いかける。半透明のオーナーは笑顔のまま頷いた。
「流行りのコンセプトカフェみたいなもんかな…私は生活紙面は専門外なんだけど…面白い店だね。一応インタビューさせてくれませんか?いい記事になれば採用されるかも…おたくも宣伝になるし。悪い話じゃないでしょ?」
女性は半笑いで胸ポケットからメモ用紙とペンを取り出しながらヴィレムに問いかける。
「だって。どーする?オーナー」
「オーナー?あの…ご老人の?凄いシステムだね。フォログラムの映像でしょ?」
「…いいえ、私は亡霊。そして彼はシアンスロープでございます。残念ながら、お客様がいらした世界とは別の次元にいらっしゃいます。お客様がいらっしゃるのをお待ちしておりました」
いつの間にか背後に立っていたオーナーと呼ばれる老人はそう告げると深深と頭を下げる。
そんな馬鹿な。さっきまで会社で仕事を終え、適当なスクープを探して街を練り歩いていたはずだ。たまたま見かけたこのホテルを覗いただけだ。窓の外を覗けば、外でまたせたタクシーが止まってるはずだ…!客は窓へと走った。
「…そんな!!?」
外は先程まで歩いていた小汚い街並みも、タクシーすらない。そこには美しい花を咲かせる庭と、見たこともない人種の客が歩いている風景が拡がっていた。
「…確かにお客様は当ホテルに訪れるべくしてチェックインなされたのですが…まずはこの世界に慣れて頂かないとですね」
クスクスと笑うオーナーの隣で面倒くさそうにロゼは咳払いをした。
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さあ、皆さん!
お客様の来店です。心を尽くしたおもてなしをおねがいします。
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