来世は他人がいい②
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
来世は他人がいい②
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__𝕀𝕗 𝕞𝕪 𝕨𝕠𝕣𝕕𝕤 𝕔𝕒𝕟 𝕔𝕙𝕒𝕟𝕘𝕖 𝕥𝕙𝕖 𝕨𝕠𝕣𝕝𝕕.✩₊*˚
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手を伸ばせば届きそうなくらいに近くにある星空が、どこまでも遠くに感じられる。
現実世界から眺めた空には灯っていなかった無数の光が降り注いでいる。星巫女でなければ知ることさえなかった、空に輝く微かな明かり。街の明かりに掻き消された星の瞬きが、雪涙にその命を伝えている。もしかすると、既に死んでしまった星もいるのかもしれない。それでも、放った光は生きた証として残っている。どこまでも遠い場所へ、その輝きを届けている。
夜空の星は、ひとりぼっちだ。無限に続く果てしない空で、誰に届くかも分からないまま。いつか死ぬその日に怯えて、光を放ち続けている。誰とも繋がれず、たった一人で、それでも輝き続けている。
雪涙達の元へ届いているのは、そんな光だ。ひとりぼっちの星達が放つ、寂しい灯り。そんな輝きが集まって、誰かの心へ届き、誰かの世界を変えている。
雪涙は、何のために生きているんだろう。
星巫女になって、大切な人を喪って。いつ死ぬかも定かでない日々の中、何度もそう自分に問い続けてきた。
空っぽになった心が、涙だけを溜め込み続けるような毎日だった。雪涙の心はきっと、吐き出せないまま詰まった涙で出来ているのだろう。雪涙と同じ透明な液体が、溶けることも零れることもないままに、ただ胸を詰まらせている。
雪涙には、自分の生まれてきた意味が分からなかった。命の価値が分からなかった。
世界で一番大切だったお母さんも、初めて出来た友達の灯莉も、雪涙を置いていなくなってしまったから。
大切な人を守るために、誰かに幸せを与えるために、人が生きているというのなら。二人をこの世界に繋ぎ止めておけなかった雪涙は、どうして生きているのだろう。二人がいてくれたから、雪涙は生きていたいと思えた。なのに、雪涙は何も出来なかった。何も返せなかった。大切な人の生きる理由にはなれなかった。
守りたいものの全てが、大切なものの全てが、雪涙の小さな手のひらから零れ落ちていく。零さないように掬うことが、生きる意味だというのに。命の価値だというのに。
お母さんが生きていた頃は、お母さんのためだけに生きていた。誰よりも守りたい大切な人を守れるのなら、どんな辛いことでも平気だった。今にも消えてしまいそうなお母さんのことを、雪涙が繋ぎ止めていられると思っていたから。
だけど、そんなことはなくて。お母さんは、呆気なく雪涙を置いていなくなってしまった。
星巫女になって、灯莉と出会って、生きていたいと思えた。なのに、灯莉はいなくなってしまった。自分の意志で、死にたいと願った。ずっと隣にいたのに、雪涙には何も出来なかった。
雪涙の命はどこまでも無価値で、意味のないもの。それなのに、どうしてまだ雪涙は生きているのだろう。
灯莉がいなくなった日から、ずっとそう思い続けてきた。自分が生きたいのかさえも分からなかった。死なないでいたのは、灯莉が守ってくれた命だと思ったから。たったそれだけの理由で繋がれてきた命だった。
生きている理由が見つかれば、生きていい免罪符になるような気がしていたのかもしれない。生きることを、誰かに許されたかったのかもしれない。
だけど結局、その答えは見つからなかった。最期の日を迎えても、雪涙が生きてもいい理由は分からないままだった。
だけど一つ、分かったことがあった。
たとえ生きる意味が見つからなくても、自分の命に価値を見出せなくても。
生きていたい。そう思える瞬間は、確かにあるのだということ。
璃星が死んだ後、その瞳から大粒の涙を流しながらも、祈鈴が強く雪涙の手を握っていてくれたこと。星天界に召喚される度に、藍空が雪涙達を気遣うような言葉をかけてくれたこと。二人の温度はいつだって温かくて、優しくて。流れないまま溜まった涙が溶けていくような気がした。
星巫女のお務めを終えて、現実世界に戻った朝。重い身体を起こして自分の部屋を出た先の廊下で、姉と妹の二人が今にも泣き出しそうな表情で雪涙を待ってくれていたこと。戸惑う雪涙を強く強く抱きしめて、嗚咽の混じった声で、頑張ったね、と声をかけてくれたこと。雪涙と同じ淡雪色の髪をした二人は、記憶の中のお母さんと同じ匂いがした。朝が来るたびにいつも、お父さんは雪涙の頭を撫でてくれた。雪涙に向けられる温かくて優しい感情が、降り積もる雪を溶かしていく。
そんな柔らかな雪解け色の感情が、触れた涙の温度が、雪涙に生きていたいと思わせた。優しさをもらう度に、この人生に意味はないなんて言いたくなくなった。
あれほど望んだ死を、怖いと感じてしまった。死にたくないと思ってしまった。
――それは、死の淵に立った今も変わらない。
自分で命を絶つことが、死を選ぶことが、こんなに怖いだなんて。二年前は分からなかった。
雪涙が死ねばきっと、家族はみんな悲しむだろう。三人は、雪涙のことを心から大切に思ってくれている。愛してくれている。雪涙のことを、家族だと思ってくれている。星巫女になって体調が悪化していく雪涙を心配してくれていたのも、泣けない雪涙が泣きたいときに寄り添ってくれることも、雪涙は知っている。
だけどもう、二度と家族に会うことは出来ない。二度と元の世界に戻ることは出来ない。今ここで命を落として、亡骸がどうなるかさえも分からない。そう思うと怖くて、足が震えて、呼吸が覚束なくなる。歌を紡ぐ唇がわなないて、空気を揺らす音にノイズが混じる。気を抜けば、恐怖でへたりこんでしまいそうになる。今すぐここから逃げ出したくなってしまう。
それでも雪涙は、自分の選んだ道を後悔することはしなかった。どれだけ迷っても、悩んでも、それでもきっと雪涙はこの結末に辿り着く。そう確信していた。これが、雪涙の選んだ未来だった。後悔なんて無かった。
お母さんが死んだ日。雪涙の小さな世界は、壊れてしまったと思っていた。
雪涙にとって、お母さんは世界の中心で、雪涙の全てだったから。雪涙は、お母さんのためだけに生きていたから。
だから死のうとして、星巫女に選ばれてしまって、命を繋いで。そこで、灯莉に出会った。
灯莉に出会って、友達が出来て。雪涙の世界は、息を吹き返した。雪涙のために泣いてくれる誰かがいたことが、嬉しかった。
だけど、雪涙は灯莉に何も出来なかった。沢山の嘘を吐かせてしまった。お母さんの容体は少しずつ良くなっている、と灯莉は言っていた。あの言葉もきっと、嘘だったのだろう。灯莉のお母さんは、亡くなってしまったのだから。
その嘘を吐かせたのはきっと、雪涙だった。灯莉がどんな思いを抱いて雪涙の言葉を聞いていたかなんて、想像さえしなかった。灯莉と出会って、もう一度生きてみようと思えて。自分のことを嫌っていると思い込んでいた家族と、少しずつ打ち解けられるようになって。自分が享受してもいいのかと疑ってしまうほどに、嬉しくて、幸せで。きっと、舞い上がっていたのだと思う。それが余計に、灯莉を追い詰めた。
そして、灯莉も雪涙の前からいなくなってしまった。自ら死を願って、零に殺された。その日から、何度死にたいと思ったことだろう。何度この世界と自分自身を呪い続けたことだろう。
それでも雪涙は、今日までの日々を必死に生きてきた。願いを叶えて死ぬ日まで、懸命に命を繋いできた。お母さんと灯莉がくれた温もりが。家族と星巫女達がくれた優しさが。雪涙を、ここまで連れてきてくれた。
雪涙の世界は壊れて崩れてしまったのだと何度も思った。だけど今、雪涙が立っているこの場所は。雪涙が自らの意志で掴んだ、雪涙の世界だ。雪涙は自分の願いを叶えるために、意味のある世界を生きてきた。
だから、大丈夫だ。雪涙は知っている。どれだけ絶望してもきっと、世界は何度でも蘇る。
怖くても、痛くても、苦しくても、悲しくても。生きて、生きて、生き続ければきっと、何度だって世界は再生する。
だからきっと、この世界は大丈夫だ。足掻いて藻掻いて命を繋ごうとする人がいる限り、きっと。
星巫女のいない新しい世界にどれだけ深い夜が訪れても。いつか必ず、陽の昇る日がやって来るから。
微かな光が点滅する視界の中、雪涙は歌を紡ぎ、空を見上げた。煌めく星空の灯りが、新しい世界を祝福するように降り注いでいる。
流れ星が落ちていく夜空に、真っ直ぐに手を伸ばした。星に手が届かないことも、流れ星を掴めないことも、知っていたけれど。それでも、手を伸ばしていたかった。
初雪が降ったあの日、曇り空の隙間から覗いた冬の星空は、ぞっとするほど冷たくて、泣きたくなるくらい寂しかった。
だけど、今は違う。雪涙を照らす無数の星明かりは温かくて、優しい色をしている。お母さんと灯莉が、そこにいてくれるからだろうか。
死の間際に立っても、雪涙の瞳からは一滴の涙も零れなかった。零れなくて良かった。
泣けない雪涙は、泣かないことを決めたのだ。
雪涙の生きた、この世界を守るために。
「お母さん、灯莉。私、頑張ったよ」
星空に溶けたその声は、温かな初雪の色をしていた。
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
🎈いつからだったろう 繕った言葉を紡ぐ度胸をさす
なにかに気付かないふりをしたんだ
❄️友達ができた 嬉しかったんだ
いつまでも報われないと嘆く君をなおざりに前向いた
☔️才能なんて嘘だ 努力なんてただの詭弁だ
💘それなら一体何を信じれば良いだろう
🔥こんな世界なんて嫌いだって君と語り合った
⚖思い出に囚われる Ah…
☪︎いま 下手くそな僕の言葉で 何かが変わるのなら
🔥🎈どうか どうか 君だけは ああ
☪︎世界よ 世界よ 愛しておくれよ
🎐💘❄️掌からこぼれた水はもう還らない
☘️⚡️🍂落ちた卵と同じだ 器用に生きようとした
⛓🔗🔥🎈器用って何だ? 僕ら正解に囚われた
☔️⚖⚜️今になって気づいたよ
君だけで 君だけで
充分だったんだ
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♓︎Pisces #星巫女_咲羽
🎐咲羽(cv.おとの。)
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♈︎Aries #星巫女_祈鈴
☘️祈鈴(cv.朔)
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♉︎Taurus #星巫女_叶夜
☔️叶夜(cv.碧海)
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♊︎Gemini #星巫女_璃星 #星巫女_璃月
⛓璃星/🔗璃月(cv.唄見つきの)
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♋︎Cancer #星巫女_紅愛
🔥紅愛(cv.未蕾柚乃)
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♌︎Leo #星巫女_柊葉
⚡️柊葉(cv.希咲妃)
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♍︎Virgo #星巫女_琉歌
💘琉歌(cv.ゆうひ)
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♎︎Libra #星巫女_藍空
⚖藍空(cv.くろ)
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🍂千歳(cv.07)
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♐︎Sagittarius #星巫女_刹那
⚜️刹那(cv.ハナムラ)
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❄️雪涙(cv.海咲)
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🗝零(cv.たぬ)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴だんご様
✯𝕚𝕝𝕝𝕦𝕤𝕥𝕣𝕒𝕥𝕚𝕠𝕟✯
イラスト:蓬様
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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