【小説】さかなの言葉(第9話)/鯨のため息
谷山浩子
【小説】さかなの言葉(第9話)/鯨のため息
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8話キャプションの続きを書きますと…
これまでの小説企画は歌と連動していたのですが、
歌と小説を一緒に聴いて読むことは難しく
読んでいると音が入ってこない
歌を聴くと読めないというご感想をいただき、
音を一旦消していただいて読んだり、
読んだあとに聴き直していただいたりと、
何かしらの手間をおかけしていました。
今回は長めの物語になるのがわかっていたので、
その手間を軽減できたらと思いました。
音楽は右脳優位で、
読むのは左脳ですから、バランスよく
脳が使えればと思い、こうなりました。
おかげさまで、文章と音との両方を
同時に受け止めてくださっているコメントを
いくつかいただきました。
谷山さんの歌詞世界は心から大好きなのですが
歌詞を離れてコーラスを組み立てるのも
楽しかったです。
海を連想できるよう、波のようなフレージングや
パンの振り方をしてみました。
拙い歌で恐縮ですが、
ヘッドフォンで聴いていただけると
より効果を感じていただけるかと思います。
お読みくださり、お聴きくださり
本当にありがとうございます。
どうか明日の最終話まで
ぜひお付き合いください🙇♀️
では、本編参ります。
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🐟さかなの言葉 9
「ねえ、“うをお” は、ここに来る前は、どこに住んでたの。もしかして、もう思い出してた?」
この問いは、私にしてみれば大決心の末だった。
「海だよ、みめ」
え?と月明かりに照らされた“うをお” の静かな横顔を見上げる。
「ほんとに、海なの? あなたは、もしかして水族……」
ざぶん、と大きめの波が膝上のあたりまで、ふたりを濡らす。
“うをお” は、くすりと笑って言った。
「だって、生きとし生けるものは、みんな海が産んだんだから」
その言葉に私は呆気に取られた顔になり、
「もう、本気にしたじゃない」
と“うをお” の脇腹をつついた。
“うをお” は動じずに続ける。
「もし僕が本当に水族で、海に帰ってしまっても、みめは僕のことを覚えているかな」
「忘れるわけないよ。ずっとずっと覚えていて、“うをお” のことが恋しくて毎日海に来て泣いて、海水を涙でもっと塩辛くしてあげる。それで、“うをお”は水を求めて、またここに戻ってくるのよ。それを私がまた助けるの」
「欲しいのは、みめじゃなく水でいいんだね」
意地悪ね、と私は“うをお” の腕を引っ張った。はずみで、ふたりとも蹌踉めき、波に倒れ込む。波をかぶった“うをお” は嬉しそうに笑った。
「“うをお” は泳げるんでしょう?」
そんなことも訊いてなかった。
「それなりに」
私は水平線を指差して、ふざけた調子で訊く。
「あそこまで泳いで行けそうなくらい?」
“うをお” は、軽く頷いてみせた。
「ほんと? 水平線の向こうまで? やっぱり“うをお” は水族か何かなの?」
詰め寄る私の鼻先を指で押さえて、
「海岸から見える水平線までの距離は、だいたい5キロメートル。みめだって、浮き輪に掴まって離岸流に乗れば、あっという間だよ」
それって泳ぐって言う? と笑ったが、そのまま真っ直ぐに沖を見つめている“うをお” の眼差しが、意志を秘めたように強くて、私は真顔に戻る。
月は穏やかに波面を照らし、波はゆるゆるとふたりの足にまとわりつき、足元からは大きく深い海の圧が伝わってくる。
私は、月明かりに包まれた“うをお” の横顔を見つめながら、“うをお” がどこにも行きませんようにと、心の中で祈った。
注) 「水族」という言葉は、谷山さんがラジオドラマを書かれた時に使われた単語です。今回、オマージュとして、その言葉を使わせていただいております。
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【INDEX】
第1話
https://nana-music.com/sounds/0670fa42
第2話
https://nana-music.com/sounds/0670fa51
第3話
https://nana-music.com/sounds/067126f1
第4話
https://nana-music.com/sounds/06712707
第5話
https://nana-music.com/sounds/067152ed
第6話
https://nana-music.com/sounds/06715306
第7話
https://nana-music.com/sounds/06717f11
第8話
https://nana-music.com/sounds/0671ad81
第9話
https://nana-music.com/sounds/0671ad94
第10話
https://nana-music.com/sounds/0671dd93
最終話
https://nana-music.com/sounds/0671dda3
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#うか谷山浩子 #うか小説
Comment
14commnets
- うか🐾城村優歌🐈週末コメントお休みし〼🙇♀️
- テルなんて綺麗な歌声達♪👏✨👏✨👏✨👏✨👏✨ うっとり♪
- うか🐾城村優歌🐈週末コメントお休みし〼🙇♀️
- うか🐾城村優歌🐈週末コメントお休みし〼🙇♀️
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- うか🐾城村優歌🐈週末コメントお休みし〼🙇♀️
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- ななトンあるフレンドさんと結末の予想をしました。私の予想に近づいてる気がするけど最後までわからないですね。楽しみです!生きていて…それだけが私の願いです。
- ピコピコ屋「ツバサ」ここまでで気になるところは、クラゲになって永遠に生きる所と言葉の不思議。 最近見てたアニメで、王女が好きな男と悪魔になって永遠に暮らすために、国を滅亡させる話があって、同じ心理みたいでした。 言葉はたぶんレンガみたいなものなのですよ。粘土をこねた方が細部まで思い通りに作れるけれど、レンガにした方が素早く大きなものが作れる。そんなイメージを持ってます。😁
- ryuzzzみめとうをおでなくても、どこの夫婦や恋人たちにも、関係性や存在を喪失する恐れはきっとあるだろうし、それはちりちりと心が端から焼かれていくような感覚だよね
- ryuzzz7回目の最後くらいから、喪失の予感めいた切迫感が伝わってきて、せつない、せつない、せつない、、、
- イナ明日うをおは行ってしまうのかしら… それにしても美しい文章書くね〜🤔
- 清水はこべ(箱) ★コメント・返信休みます明日が来るのが待ち遠しいような、勿体無いような。 でも、心待ちにします。