グルカゴン
マルコ
グルカゴン
- 31
- 6
- 0
(薬品の調達、か……。雲行きが怪しくなってきたな)
祟りだから、呪いだからと笑う彼はすでに正気をを失っているように見えた。いや、彼は元から少し特別なところがあるけれど、あれが自我で抑制できるところにある狂気では無いことは明白だ。だからこそ、逆らえない。
「、―くん」
抜け出すすべを考えるマルコを呼び止める声。あぁ、そうか。君は君でやりたい事があったのか。
イリセの処刑の段取りは驚くほど早く決まった。ハイルの持ってきたオカルト的な資料と、ガクの強い希望が合致したからだ。本当であれば見つかりにくい廃倉庫内部で行いたかったのだが、ニュータウン建設予定地区で処刑を完遂させなければ意味が無いし、騒ぎになってアジトが無くなる可能性もあったため、一度アジトにイリセを呼び、動かなくなったそれを規定の区画内に持っていく計画が立てられた。
もちろんイリセがそう簡単に来るはずがない。そこでミモザが護身用に持たされているスタンガンを脅しに使い、彼をここまで連れてきた。
「こんな真似して何の用だ? 僕はもう抜けると言った。今日だって塾が―」
「僕らは太陽の船。沈んだ同胞を引き上げて、お別れしてあげなきゃウソだよね」
「何をっ!?」
首元にスタンガンを当てられていたイリセは、横から伸びてきた手に反応が遅れて薬剤を嗅いでしまう。引き剥がそうとすると首に軽く電流が流れ、意識が飛ぶ状況で足をばたつかせて抵抗したものの、数分とせずに彼は静かになった。身動きが取れないように縛るのを見届け、ガクはニコニコとしながら大きな袋を引きずってきた。
「これに入れたらカッコイイよ!」
「ダメだよガク。それに今ガクの指紋が着いちゃったから、祟りじゃないってバレちゃうよ?」
「呪いなら?」
「呪いもバレたらダメなんだよ。マルコの見つけたやつに詰めよう」
軍手をしたミモザとハイルがイリセに袋をかぶせる。背を丸め、膝を抱えるような形で入れてもそこそこの大きさのある袋だ。工場内にあった台車に乗せて、目的地まで運搬する。
「ガク、もう帰らないとお母さんたちが心配するよ」
「えぇー!祟り見たい!」
「祟りより、すぐに捜索願出すお母さんの方が怖いでしょ?」
「それはそうだけど……」
「俺たちを信じてよ、ガクくん」
「そーそー、キッチリやっておくって」
「じゃあ、航海士ミモザに指揮を任せる。ビデオ撮ってよ!あとで見るから!」
「うん、任せてよ」
深夜、以前は農作業用機械が入れられていた掘っ建て小屋から原因不明の出火が起きた。火は高く高く燃え上がり、小屋は全焼。焼け跡からは麻袋の断片が発見された。時を同じくして、元町役場前の小さな公園で煙草の不始末が原因と見られるボヤが発生。二つの事件の関連性を警察は現在調査中だ。
「誘ってもらったのに悪いんだけど、俺も―くんみたいにあまり長くここにはいられないみたいなんだ。でも、君への協力はするつもりだよ。何かどうしようもなく困ったら、俺に連絡してよ」
夜闇が2人の少年を包み込む。秋はもうすぐそこまで迫っていた。
#太陽の船
Comment
No Comments Yet.