闇夜が僕らを呼んでいる
イリセ
闇夜が僕らを呼んでいる
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街中に張り紙を貼った効果は薄いようだ。大抵は迷惑行為として剥ぎ取られているが、まだ数点残っているのを見ると少なからず賛同者は居たらしい。それが分かれば十分じゃないかとイリセは考えていた。船との別れを悲しむのは自分たちだけでないし、行動に移さずとも、もしくは僕らの知らないところで既に行動しているのかもしれない住民のことを思うと、何となく満たされるような気がした。
(元々実現性は薄かった。僕ならもっと大人を巻き込む行動を起こすし、こんなオカルトに走ったりは……)
「ちょっと聞いてるの?!」
「ん、あぁ、ごめん。聞いてなかった」
「だからね、お母さんあなたを新しい塾に入れようと思って」
「……塾?」
―土曜の夕方、一日中調べ物をした彼らはいつものように廃倉庫に集まり、報告会を行っていた。めぼしい成果は少なく、新しく船の呪いとして何か事を起こさなければいけないのではないかという方向で話がまとまりつつあった。
「船員、ハイル……。その、おまじないというか、オカルトというか、悪いナニカを呼ぶ方法をネットで、調べてたんだけど……。お、面白いのが、あって……」
「悪い物を呼ぶ?そんなキショいこと調べてたのかよ」
「ご、ごめんっ。でも、役にたつ、かなぁなんて、はは、思って……。で、これコピー、してきたんだけど」
「いい加減にしないか」
「イリセ?」
「僕はあの船が無くなってしまうことを悲しんで止めたいと思ったし、1人では難しいから君たちと徒党を組んだ。だと言うのにこの惨状だ。オカルトに祟り、まっとうな方法じゃない事くらい分かるだろう?」
「…でも、まっとうな方法ではもう止められないのも君だって分かっているだろう?」
「っ!!―あぁ、もう沢山だ!!僕はここから抜けるよ。君たちと違って僕は忙しいんだ。学習塾に英会話、ピアノに剣道だってある!これ以上は付き合いきれない!!」
激昂したイリセのいらだちと悲痛さが入り交じった怒声が倉庫に響く。肩で息をする彼は、一瞬泣きそうに表情を歪ませると倉庫から出ていった。ずっしりと沈黙が重くのしかかる。喉の奥が乾くような心地がした。口を開こうにも、どう切り出せばいいか分からない。そんな空気感の中、ガクがカラカラと笑い声を上げた。
「この悪者を呼ぶの面白いね!でも、この人に聞かなくても分かるよ。オレのやろうとしてる事は間違ってない。絶対に"はい"だってね!」
「ガク、お前……」
「ミモザ、マルコ、レゴール、ハイル。オレのやりたい事、やってくれるでしょ?」
柔らかく歪む瞳には何が見えているのか、4人には全く分からない。分かりたくもなかった。彼が望んでいる事は、裏切り者への処刑だなんて。
#太陽の船
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