Believer
太陽の船
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ガクが手当たり次第に声をかけようとするのをミモザがなだめつつ、人員を揃えた彼らは街の外れの方にある工場地帯にアジトを構える事にした。カッコイイからという根拠のない理由と、兄が工場に務めているおかげで、ハイルがその工場内の一日の人の流れや内部の構造を軽く知っていたからだ。夏休みが開けてすぐのどこもかしこもだらけきった学校生活を終えて、工場と影の境が分からなくなる頃に6人は廃倉庫へと集まった。
「今日も集まってくれてありがとう。前回の続きから始めよう」
「じゃあ、俺から報告だ。通信士レゴール、今回は前に行った投書の結果を報告する。『貴重なご意見ありがとうございます。今回の決定は私ども鳴海ニュータウン計画委員会においても、苦渋のものとなっており、銅像の撤去に関する新たな対策を検討しております。』だってよ。どう思う?」
「船医―」
「機関士イリセだ。僕に言わせればそれは適当な言い訳にすぎない。よって、その書面の内容を信用せず、次のステップに移すべきだと思う」
「船医マルコ。俺もイリセくんの意見に賛成だ。街中の掲示板に張り紙をしよう。より多くの賛同者を得ないと話にならないよ」
「でもそれだと遠い道のりだよなー。もっと手っ取り早く圧がかかんねぇと撤去されるぞ」
「や、やっぱり、学校の人たちを巻き込むとかした方がいいんじゃ……」
「あまり大事にしたくないんだ。それに、先生方にかけあっても協力してもらえるかどうか……」
「近所のガキから聞いた話だけど、小学校で玉山町の思い出をテーマに図工の時間、絵を描いてるらしい。お別れムードって感じだな」
レゴールの発言を最後に重たい沈黙が流れる。残された時間は少ないのに、決定的な打開策がない。それまでの会話をニコニコしながら聞いていたガクは、あっけらかんとした態度で口を開いた。
「工事が出来ないようになればいいんだよね?」
「ガク……?まあ、大まかにはそうなんだけど」
「じゃあ工事をする場所で悪いことが起こればいいんだよ」
「悪いこと?」
「そう!何だっていいよ。事故でも事件でも、祟りでも呪いでも何だっていい!」
「大元の計画が潰れれば撤去されない、か。」
「前から意見は出ていたけど、具体的な方法がなくてうやむやにしていたっけ。少しオカルトチックにはなるけど、可能性が全く無いわけではないかな」
「ガク、お前天才だよ!」
「っへへ!痛いよ、レゴール!はははっ」
「じゃあ、張り紙作戦と同時に、色々調べ物も進めよう。いいかな?ガク」
「うん!皆でこの街を絶対に守ろうね」
色素の薄い黄色の双眸が5人をとらえる。その眩しい光に動かされるように彼らは敬礼し、誰かが息を吸うのを合図に一斉に声を揃えた。
『僕らは太陽の船。迫り来る変化の波にこの世界が沈もうとも、悠々とその上を走る存在だ』
#太陽の船
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