Memory3≫愛に惑う女たち
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その日もアン=ウブカタは大学の研究室に篭っていた。
大学の授業はレベルが低すぎるし、同級生たちも知能の低い奴らばかりだ。それなら研究室に篭って研究をしていた方がずっと合理的だ。両親も大学に行くのは学歴を付けるためなのだから、授業や人付き合いのような馬鹿らしいものには気を遣わないで良いと言っていた。
「ウブカタ先輩」
「……何?今忙しいんだけど」
「この前の先輩の論文なんですが」
露骨に不機嫌な顔をして振り返ると、長いグレーブラウンの髪が美しい女性が立っていた。凛としたグリーンの瞳が臆することなくアンを見返している。
エリカ=コマツ。真面目で勤勉な性格も相まってアンほどではないが優秀な学生だ。アンが名前を覚えている程度には。
「ここのアンドロイドの有機生体ボディに使う細胞の遺伝子構造について質問したいんです」
「……話しても理解出来ないと思うけど」
「どうしてそう思うんですか?」
いつも通り冷たくあしらうが、エリカは怯まずに更に質問を重ねてくる。
「確かに私はウブカタ先輩のように優秀ではないので、今は理解できないかも知れません。でもいつか理解できるかも……いえ、理解してみせます。それが教わる者の礼儀ですから」
「でも……何で私に?」
自分で言うのもなんだが、自分は人間嫌いでひねくれた性格をしている。大学なら他にも教えを乞いやすい相手がいるのではないだろうか。
するとエリカはぱっと笑顔を見せる。
「だって先輩の研究、すごいですから!先輩の論文全部読みました!この前の論文だって画期的な内容だからどうしても理解したくて!」
今まで親にすらそんな真っ直ぐに笑いかけられたことも褒められたこともなくて。
……アンはその眩しい笑顔に目を奪われた。
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「マスター、起きて下さい」
「……ん?」
「デスクでの睡眠は健康を害します。ベッドでの睡眠を推奨します」
瞼を開くと先程までの夢と同じ顔……いや、似てはいるが明らかに表情の抜け落ちた顔が視界に入った。アンドロイドのエリーだ。
「あー……懐かしい夢を見たなぁ。学生の時のエリカの夢を見たよ」
「そうですか……私のオリジナルの……マスター、ご気分の落ち着くお茶をお持ちしましょうか」
「何を言ってるの。エリカの夢を見られたんだから気分は良いに決まってるでしょ」
アンはいつも通り薄ら笑いを浮かべる。
「……あーあ、エリカに会いたいなぁ」
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同時刻、エリーと同じ顔がベッドの上で目をゆっくりと開いた。
「はぁ……なんて夢……目が冴えちゃったわ」
髪を肩からかき上げようとして、自分の髪は夢の中より短くなっていることを思い出す。彼女と別れた時に切ってしまったのだ。
「まだ未練があるのかしら。馬鹿よね……あの人は人を愛せないのに……」
エリカはぽつりとこぼした呟きを振り払うように頭をふる。こんな気分になってしまう夜は車を飛ばして気分転換するに限る。
エリカは車のキーを手に取ると、寝室をそっと抜け出すのだった。
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