初めまして「ハスタと鬼灯」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ハスタと鬼灯」
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少し疲れた様子で、甲板で夕涼みをするハスタ、その後ろから、ちょんちょんと指先で背中をつつくものがあった。
同僚かとにこやかな笑顔を作って背後を見れば、小さな小さな小鳥が、積荷の出っ張りに留まって小首を傾げて見つめていた。
びっくりして、思わず“ワッ”と声を上げると、ことりは跳ね上がり飛び去ってしまったが、足元には置き土産が数粒落ちている。拾い上げたそれは、森に落ちている色とりどりの木の実で、丁寧にヘタの根本から摘まれた痕がある。これは、嘴じゃあ到底できない芸当だ。
「鳥、苦手ですか?」
不意に真上、マストの下段から降ってきた少女っぽい声と、足元のそれと似た木の実。それで、あの小鳥を呼び寄せたのが鬼灯であったと察しがついた。
彼女に連れられ海沿いの森まで散歩に出ると、後から後から、餌の気配につられて小さな気配がついて来た。森は合歓花の季節。風に乗って漂ってくる甘い香りが心地よく、優しい匂いに足が軽くなった。
「鳥って結構懐っこいのね。豆でハトと遊んだことはあるけれど、ああいう小鳥とはお近づきになったことがなくて」
「いつもは慣れるまでにもう少しかかるんですけど...最近みんながよく歌ってるから、友達だと思ってるのかな」
気がついたら肩に乗ってきた白い小鳥が、まだ不慣れな調子でチイチイ鳴く。お手本にと口笛を吹いてやると、彼は目をぱちくりさせて、何度も上達しないチイチイを繰り返し、ちょっと拗ねたように、チイ、とトーンダウンした。
鳥だったらどんなに良かったろうと、思ったこともあった。飛べない日々に、窓辺で見かける彼らが恨めしい日は数えきれず、少しだけ、風に乗るカモメにうんざりして、石を投げたこともある。
「......欲しいものがあるのは、お互い様ね」
もうじき風と波の音がするから、ここいらで休戦調停を結ぼう。
彼女は何も考えずに、ただ、歌を交わして、合歓木の小径で彼を愛でる。
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ハスちゃんが行き止まりになったとき、何故かいつもひょっこりやってくる妖精さんのような人、鬼灯さん。
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