初めまして「ウタウと鬼灯」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ウタウと鬼灯」
- 44
- 9
- 0
コンコンとドアを鳴らす控えめな音が響いた瞬間、すごい速さでドアが開いて、小さな影が部屋に転がり込んでいった。それは普段、人殺しとやりあう時に見せる身のこなしにも引けを取らない動きだった。
口元にシーッと指先を当てて、顔を見合わせ、ウタウと鬼灯が音を探る。部屋の上下左右、しんとしていて人の気配はない。幸い、今日はもうみんな出かけているようだ。
「...持ってきた?」
「持ってきた」
「見せて見せて」
「これなんだけど...」
見たことのない異国の言葉で書かれたレシピを、ウタウに見せたら、彼女は“ああ、カヌレだ”と即座に手を叩く。耳をぽやんと桃に染め、手を合わせる訳ありの鬼灯にとって、彼女は救世主以外の何者でもなかった。
きっかけは、マメスケの冷やかしだった。数日前にホールで和菓子をこさえていたら、マメスケがやってきて、側で徐に同じものを作り始めた。それがなかなかの出来栄えで、なんだか鼻につくドヤ顔を見せられたので、次第に鬼灯も張り合い始め、決着がつかないものだから次週洋菓子を改めて披露しあおうという事になった。
自分も知らないような菓子なら、彼をあっと言わせられると読んでの選択だが、いかんせん普段から小豆を煮るのが仕事である鬼灯だ。ミイラとりがミイラになる前に、師についたわけである。
話を一通り聞いて、レシピを眺め、ウタウはうんと考えた。
そしてたった一言だけ、単刀直入に疑問を口にする。
「鬼灯ちゃんさ、マメスケさん好きだよね?」
「...!?!?」
無邪気かつ、鋭いひと刺しにたじろいで、自分でもよくわからないのか、鬼灯は溺れた金魚のように口をパクパクするばかり。意図せず意地悪を働いてしまって、反応に困ったウタウも口をパクパク。
このことは、二人だけの秘密にしておこう。
答えはきっと、週末、彼の左胸に爪痕を残すころには分かるはずだから。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ウタちゃん、思わぬところで無邪気にキューピッドを買って出る!?
鬼灯さんの今後の恋路やいかに...
Comment
No Comments Yet.