初めまして「ウタウとさり」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ウタウとさり」
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襖を開けたら、流石のウタウも面食らった様子で、ちょこんと正座で縮こまっていた。そりゃそうだ、正義の味方みたいなもんだよって伝えられて、カフェで働くつもりで乗り込んできたのに、蓋を開けたら自分がいわゆる“やくざ”の仲間入りを果たしていたって言うんだから。
さりが、まあまあ気を緩めろと、着物の襟をちょっとばかりくつろげて見せたら、彼女は何を勘違いしたのか、思いっきり肩から脱いで腕を勢いよく見せてくれた。同じく、面食らったさりと、決死の覚悟すら感じるウタウの間に、一瞬、混乱の沈黙が流れる。
「...っふ、はは!!」
「えっ!?待って、違う!?ごめんなさい、私そう言うしきたりとかわかんなくて...!」
「安心してよ。いきなり墨入れろとかそんな乱暴なことはしないし、させないからさ。行こう」
久々にできた妹分に教えることは沢山ある。
任侠の心構え、身の守り方、悪人を生け捕りにして連れ帰る方法、情報収集の基本...あと、朝はみんなで身支度をするからお寝坊したら起こしにいくよとか、上司で友達のお嬢はこんなに可愛いんだぞ、とか。副店長のイトウがお粗相したらケツを引っ叩くのがお決まりで、仕事を頑張った日にはみんなでカラオケに行って、ファミレスで全メニュー制覇をする、も教えておかなくちゃ。
ホールで、着物の仕立ての準備をして待ち構えていたみんなに、ウタウをそっと引き渡す間際、彼女はさりげなく折り鶴を握らせる。力加減がうまくいかず、角が丸くなった、ちょっと不器用な鶴の羽には、電話番号と、上手に描いたウタウの似顔絵が添えてあった。
「いい?絶対登録しとくこと。ヤバイ時は非番だろうが、絶対かけんだよ。連絡くれなかったら拗ねちゃうから」
クールに決めた背中は、緩みかけの口元を隠して次の現場へと向かう。
明日はいよいよ、ウタウが辻斬り娘になる日。お揃いの傘を調達しに、紅葉の待つ甲板へ向かう影に、ありもしないはずの元気な尻尾が見えた気がした。
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狛犬?番犬?牧羊犬!?お犬様の本領発揮、ウタちゃんの最強セコム爆誕。
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