初めまして「ウタウと秋那兎」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ウタウと秋那兎」
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「あっ...」
「どうしたんだい、ウタちゃん」
「あの、いえ......まさか、あの配達のお兄さんが」
「あっはあ、そりゃこの界隈ではよくある出来事だねぇ」
僕は、バツが悪そうに頬をかいている路地裏珈琲の通称“王子様”と、恥ずかしそうにスズキさんの後ろに隠れてしまったウタちゃんを見比べて思わずニヤついた。
路地裏珈琲のチラシがばら撒かれ、街に僕らが到着したあの日。清々しい朝の日差しに起こされて、ウタちゃんはいつもの朝を迎えた。お店の二階から、相棒のカラシちゃんの作る朝食の香りに誘われてヨタヨタ降りてくる。そして身支度もそこそこに、ドロップスの雨の予報を耳にした足で、浮き足立って飛び出した店先に、偵察に出ていた彼だか彼女だか分からないヤツがいたと言うわけだ。
「その節はどうも、大丈夫だった?あのー...」
「だ、だだ大丈夫でした!パンはちゃんと取り落とさなかったし、ちゃんと、すぐ戻ってシャツ裏返したので!バッグも!バッグの中身もしっかり!詰め替えたので!!」
言葉を濁した王子様が制するまもなく、スズキさんの後ろからひょっこりと顔をだすなり叫んだその一言が、全てを端的にまとめてくれたおかげで、僕はその情景がありありと分かったわけだけれど。一体何を持って外に出たんだとか、本当にパンを咥えたまま家から出たら王子様に出会えるのか!?とか。矢継ぎ早に目を輝かせて攻め込んだデリカシーのない男たちのせいで、冷蔵庫に逃げ込んでしまった彼女を呼び戻す作業が、それはそれは大変だったと言う事は、今後彼女と秋那兎の出会いを語り伝える際に絶対欠かせないくだりになるだろう。
そしてきっと、僕らは仲直りに王子様が淹れた、蜂蜜入りのミルクティの香りを思い出す。
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よくある少女漫画のアレを経験した仲なので、きっと息もぴったり!
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