初めまして「ハスタとさり」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ハスタとさり」
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久々に乗るとは思えない快調なエンジン音をまき散らしながら、フルフェイスの下でイヤモニター越しにコール音を聞いて応答を待った。
3コール、電話口で凛と名乗った彼女に、興奮が促すまま“最高の仕上がりだよ”と告げたら、“乗り手がいいから喜んでるのよ”と、照れた声が返って来た。
背中ではしゃいでしがみついている紅葉の歓声と、回転数を増したエンジンの音は、彼女に届いているだろうか。駆け抜けて流れ行くネオンの残像と、夜景の流れ星は、昨日見た映画の、星間飛行さながら。
長いこと灯台から星空を眺めていたハスタに、地上の星もなかなかいいものだと、この景色をお土産にする手段があれば、ぜひ試してみたかった。
「おかげさまでこっちはすごくいい夜なんだけどさ、この空気は持って帰れなそう。埋め合わせに、次の街では誘わせて」
「いいの?上から見ていたよ、素敵なレディを連れて、現代に蘇ったローマの休日みたいな後ろ姿で出ていくところ」
「そこは...ほら、あのイトウって番頭が、たまにはヤキモチ焼いてもらうのも、大事な駆け引きだって言ってたから」
「楽しみにしておくよ、秘密結社たるもの、スリルと夜遊びも嗜まなくっちゃね」
切れた通話に、なんだったの?と。挽きかけの豆を片手に問いかけたサトウへ、ハスタは“友達からだよ”とだけ、答えて微笑む。
「不思議だね......夜風の、すごくいい匂いがした。私の中にもあんな記憶があったのかも」
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夜が似合う二人は、ちょっぴりクールで大人な関係。
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