新たな探し物
ポルノグラフィティ
新たな探し物
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朝、寝ぼけ眼を薄く開きながら工房の前を掃き掃除をしていた。すると嬉しそうな寂しそうな、複雑な表情のヤミィが箱を抱えて歩いていた。
「よぉ、おはようさん…なんだそれ」
「ああ、これ?不用品よ。理事会に寄付しようと思って…それより見て!これ…シノと交換したの」
そういうと小さな美しい小箱を取りだした。装飾が施されている。
「魔法の宝石箱よ!ここの特別な台座に置かれた石の力を利用して、箱全体に属性を持たせるんですって。だから、持っていく場所によってアクセを変えれば壊されたり盗まれる心配もないわ」
ジーグはその箱を受け取ると、くるくる見渡した。台座を開いたり箱の内部を探ったり…工具を取りだしたあたりでヤミィは箱を取り上げた。
「ほほぉ…交換したって、出張所にでも行ってシノに交渉したのか?」
「いいえ、昔のバザーの売れ残りをシノが貰い受けたみたいで、それを1人で売り出してるわ。さっき店を用意してたから、今やってるんじゃないかしら?顔出したら彼女、喜ぶわよ?」
ありがとう。小さく礼を言うと、掃除もそこそこにジーグは教わった場所へと向かっていった。最近買い物ばかりだな…と苦笑しつつ、ジーグの足は期待で早まった。
驚いた顔でシノがジーグを見つめた。訝しげに目線を返すと、シノはアワアワと弁解する。
「あ、あ、その!ジーグさんがこんなバザーに来てくれるなんて思わなかったから、驚いちゃって」
…そういえば、財布を持ってるだけで驚かれた事もあったっけ…私の街でのイメージっていったいどうなってるんだ…不安になる。
「そ、そんな事より来てくれて嬉しいです!是非見ていってください!ジーグさんの気に入るものがあったらいいんだけど…!」
職人気質の武器屋に対して、商売初心者のシノは否が応でも緊張していた。こんな時になんて言ってあげたらいいのやら…少し悩んだが、商品に目を向けて目を逸らした。
「…なるほどな、確かに売れ残りと言うべきか。…なんだこりゃ?壊れた物すらあるな…」
うっかり商人としての自分が出てしまった。商品にケチが飛び、シノはひぃ!と萎縮する。あ、いや…とフォローしようとしたが、元来不器用な気質…上手い言葉が浮かばない。小さな面倒くささと、自分の不器用さと配慮の無さに自己嫌悪しつつ目を落とした。するとそこに驚く程緻密なボードゲームの駒。
「…凄いな…クラリカじゃないか…」
クラリカ、いわゆるこの世界でのチェスのようなゲームだ。キングを倒すのは同じなのだが、種族の多いこの世界のゲームらしく、駒も、人間や亜人、獣人、魔人やモンスターまでいる。この駒は種族別で素材が変わっていた。重厚な木材で掘られたもの、美しい鉱石で作られたもの、金属、骨等など…どれもその作りは素晴らしく、今にも動き出しそうだ。恐らくもうこの世にはこのレベルで駒を掘れる職人はいないだろう…。引き込まれるように見つめるが、シノはどこか気まずそうな顔をした。
「す、すいません…ちゃんとした商品だけ出すようにこれから気をつけますね…!」
そう言って、急いで駒を仕舞いだした。慌ててシノの手を掴んで、はっと手を引いた。
「え?」「あ…ごめん」
「それ、皆美しさに手に取るんですが…ボードと『獣人』の駒が揃ってないんです…。それで皆買わなくて。クラリカはコレクションアイテムでもあるから、きっと個別で売ったか持ってかれたのだろうって…。だから遊べないんです…」
確かに、色々な地域で遊ばれ作られるゲーム。種類も沢山あり、コレクターもいる。この駒の美しさなら、持っていかれるのも納得出来る。まして、ボードは全てのコマの素材をはめ込んだ組木のような作りのものらしい。さぞ見事なのだろうな…ジーグは思った。芸術品…武器にも勿論あるが、使い、壊し、捨てられる運命から外れ、欠けても尚光を放つ…その品格に目眩すら感じた。
「それ…買うよ、全部」
「だって完品じゃないし…さっきジーグさんも…」
「あー…悪かったって、思った事は素直に出ちまう質なんだよ…!」
目を泳がせパクパクとするジーグがなんとも珍しく、愛らしくうつったシノは思わず笑ってしまった。笑い声にさらに動揺するジーグ。
「ふふふ…!ごめんなさい…!だって、いつも冷静なジーグさんが、なんだか今は可愛くて…あ!ごめんなさい。代わりに、その商品の話を知ってる限りお教えしますね。作られた時代で名工と言われていた職人さん達に、王家や要人に献上するために作らせたものらしくて、その内の鉱石を扱う職人さんがキリエにいた関係で、ここに残ってるそうですが、同じ商品は数点存在するそうです。でも…献上するための品なので数が本当に少なく、コレクターには幻の逸品なのだとか…」
「ありがとう…なら、残りの『獣人』の駒とボードも探せば手に入るかもって事だな?」
「とても難しいそうですが可能性はありますよ!」
まるでピースを失ったパズルの様だな…これを完成させたらどれだけ見事だろうか…。いつか皆で遊んでみたいな…と気恥ずかしくて言えないまま、シノから商品を受け取った。…探し物か…なかなか面白そうだ。
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新たな目的が出来た。
(シノのバザー 売上4)
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