君達の先を思う
ポルノグラフィティ
君達の先を思う
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植物も悪くないな…そんな気持ちを以前教えてくれたフィー。彼女から貰った花ももう終わり、いつもの味気ない工房。何となく感じてしまった寂しさ…そんな中で植物園の手伝いを募集しているらしいと小耳に挟んだ。…気晴らしだよ、ただの…と自分に言い訳し、申し込みをして指定日に植物園を訪れた。
「ようこそ!お待ちしてました!」
「あらあら、ジーグさん…暑いのにありがとうございます。花祭以来かしら…」
嬉しそうにフィーと園長が出迎えた。照れくさそうに頭を搔くジーグ。
「今日はジーグさんにとっておきのお仕事を頼もうと思ってました!」
自分向きのとっておきの仕事?なんだろうか。木でも切り倒すのか?雑草の焼却?…いやいや、修理だろうな、武器屋だし。腰に巻き付けてあるツール入れのボタンに手をかけた。
「このか弱い苗を植え付ける作業です!ジーグさんはとても優しい方だから、きっと向いてます!聞いてください、園長。悩みを聞いてくれた上に、プレゼントした花束と同じ柄のカップをお返しにくれたんですよ!素敵でしょ?」
「まぁまぁ!フィーちゃんがいつも使ってるあのカップね。なんて優しい方なのかしら。きっと苗も優しく扱ってくれるわ」
一気に石化するジーグ。確かにフィーの言っていることは嘘ではない。フィーの前では優しい自分しか出してなかったかも…前に山賊に銃を放ったり、創作に行き詰まって荒れていたなんて、恐ろしくて言えないと思った。
「あ、いや…フィー、そんなに優しさを求められても自信ないというか…その…」
ジーグを信じきった目線と、話を信じきった目線が、さぁ苗を持って行きましょう!と訴えかけていた。…ボロが出ないといいけれど…日頃の素行を悔いながら、苗の入ったバスケットを抱えた。
既に耕され、新たな植付けを待つエリアにたどり着いた。バスケットを恐る恐る置く。中には秋や冬に向けた植物の苗が詰まっていた。
「あぁ、そうか…成長する時間があるんだもんな…」
暑さで額に汗が滲むが、バスケットの中身は肌寒いキリエの風景を夢見ている。
「あまり植え付けは夏にはやらないんです。本来はもっと気候の落ち着いた時にやるのですが、数が減ってしまったものや、野菜、園芸店で売る草花なんかを育ててしまうんです」
「私ら職人は作ってから育てるんだが…そうか、自然と向き合う者は育てる時間が必要なんだな。当たり前の事なのに…なんだか気付かされた気分だ」
その言葉にフィーも園長も優しい笑顔でジーグを見つめる。同じ世界、同じ時間を生きているのに、見える世界と流れる時間がこうも変わるなんて。新しい世界にいるかのような感覚。フィーにお願いしますと渡された小さな苗が風に揺れる。握り潰せば直ぐに壊せそうなそれは、青々と生命の色を放つ。
それから、園長の指示の元で2人は黙々と苗を植えていった。気温が高くなって苗に負担がかからぬよう午前からの作業であった。黙って作業に没頭したが、気付けば太陽は真上に上がろうとしていた。暑いな…ふぅと息を着いて、汗を拭った。
「何とかお昼前に終われました!本当に感謝します!!ありがとうございます、ジーグさん」
「フィーちゃんの言う通りね、とても丁寧に苗を扱ってくれたから、安心して任せられたわ…。今から帰っては暑くてならないでしょ?お昼ご飯を召し上がってから帰ってちょうだいね」
ああ…と口を開け断ろうとしたが、木々が風に揺れ、草木の香りをのせた風がジーグの口を抑えたような気がした。…お言葉に甘えて…ジーグは照れくさそうに呟いた。
見たことも無い異国の野菜のマリネや、爽快感がたまらないミントレモネード、近くのパン屋の白パン。夏にピッタリの美味しい昼を皆で食べた。
「フィーが花束を持ってきた時…」
ジーグが急に話し出した。
「あの時…花は好きだって言った。実際嘘じゃない。でも…今日育てる側の仕事に触れて、フィーの言う花が好きって言葉には並べないなって思ったよ…なんか、ごめんな」
「え!え?謝る事はないですよ!お花が好きな気持ちはどんな理由でも、私達には嬉しいんです!」
ニコニコと答えるフィーに、少し俯くジーグ。
「可愛いな、幼いものは…。あいつらが大きくなって花を咲かせたら…それを誰かが綺麗って言ったら…考えると胸が熱くなる。作った武器が誰かの役に立ってる事は私の至福だ。でも、それともまた違うな…親心ってこんな感じなのかな」
私は中性だから…目を細めた。フィーは少し悲しそうな目で見つめる。中性は子孫が生まれる可能性は残念ながら低い。ジーグのように後天性でなってしまった者は、その要因も障害として作用する可能性すらある。
「わ、私!ジーグさんにお子さんできたら、真っ先にお花を届けます!大きくなったら、お野菜の苗を届けますね!あ、あれがいいな!クーガエッグ!卵みたいな実がなるんです。甘いからきっと好きになってくれますよ!」
ジーグが珍しく優しい顔で笑って反論した。まだ相手もいないのに、気が早いと。
「でも、良いもんだな。いつも自分が生きる事だけで精一杯だった。何かを育てて慈しむなんて心も無かったから…ご馳走様、本当に美味しかった。またなんかあったら呼んでくれよ…ほら、私の手作業は優しさで満ち溢れてるからな…」
ああ、前だったら冗談でも人に自己肯定しなかったのに…影響受けたのかな。苦笑したが、フィーは突っ込むどころか、ええ!と力強く答えた。
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秋冬に向け、苗を植えました。
(フィーの園芸店 売上4)
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