バレンタインのお返し小話「Happy white day」(ふーら)
秘密結社 路地裏珈琲
バレンタインのお返し小話「Happy white day」(ふーら)
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こういう時に、男の本質というものが出てしまう。化けの皮が剥がれ落ちて、意気地なしで狡い、虚勢っぱりの俺が暴かれてしまうのだ。ホワイトデー前に書き出したのでは、間に合わないのはわかっているから、俺は一週間も経たぬうちに、筆をとって夜な夜な返事を書き始めた。
チャラチャラしている言動は、もう今となっては立派に自分の一部になった。しかしながら、人の好意や親切を間に受けた時、それを軽く受け止めてみたりだとか、茶化して大袈裟に騒ぐ事で現実味を消してしまうのは、やはり俺の吐いた嘘にあたる。
床にまで、書き損じて、練習に再利用した挙句、クシャックシャに丸めた便箋の成れの果てがこぼれ落ちて居た。キキョウに分けてもらった一筆箋は、新品だったはずなのに随分と厚みが減ってしまった。だって彼女の手紙に3倍返しで応じられるような言葉が、見当たらない。
彼女がチョコレートを持って来た時、実は廊下の隅っこでその姿を目撃していたのだけれど、俺はそのまま身を隠し、呼吸が止まるほどに気配を押し殺してジッと固まっていた。そこでいつものように、“やあやあ俺に御用だろうか、モテるにしても、毎年こんな可愛いこに世話をされちゃあ照れちまう!”くらいの台詞が出て来てくれれば良いのに......そう、これが本質なのだ。彼女の感謝の眼差しがまた、本物であるからこそ、俺はどんどん意気地なしにされてゆく。
「あかんわ......なんでしっかり涙目やねんな、32歳俺。」
君の思っているような大した大人ではないのだと、そんな貴重な尊敬の念はどうか、いつか現れる然るべく尊敬すべき誰かの為に取っておいてくれと、肥大した自虐的なメッセージばかりが溢れては、彼女の言葉に支えられて踏みとどまっての繰り返し。逆なのだ、君が真っ直ぐであるから、曲がった俺を真っ直ぐに見てくれるだけで。
箱の中には、勿体無くて残していた最後のひとつ。
じんわりと生ぬるい口の中で溶かしながら、水滴の落ちた便箋を、またひとつ破り捨てて書き直す。
「次年度も姫を見守るスーパー番頭、俺のご活躍にご期待下さい、Big Love 、はーと、xoxo.....」
背水の陣、有言実行、人の愛で俺は変わる、変わってみせる。そう呪文のように呟きながら飲み込んだショコラは、ほろ苦くも優しく喉を撫でていった。週があけたら、いよいよお返しを買いに出よう。彼女の部屋にいた熊そっくりの、おいしいやつを探しに。
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Happy WD!! :)
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