バレンタインお返し小話「Haappy white day」(しろ)
秘密結社 路地裏珈琲
バレンタインお返し小話「Haappy white day」(しろ)
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「ええ?どこに居るのよ、俺のスイートな姪っ子」
「兄さん分かった、分かったから、ちょっと落ち着いてくれるかな!下手に人の部屋開けるんじゃないよ、着替えでもしてたらどうすんのさ、ウチの子達の殴る蹴るは半端な覚悟じゃ済まないんだから!知ってる?イトウ君の尻とかもう、無残なもんだよ!」
コンコンコン、と、サトウでは絶対にあり得ない速さと強さでドアが叩かれた。やかましい声が二つ、聴き慣れないそれに空耳かと耳を疑ったが、無断で開いたドアの向こうから、彼の顔が“嘘ではない”と主張して来た。ホワイトデーの夕方、6億の叔父が、唐突に部屋へと訪ねて来た。それも、真っ赤なバラのショートブーケを持って。
「しろ!!」
返事をする間もなく、彼は満面の笑みで歩幅をみるみるうちに詰め、抱き締めんと腕を広げたすんでのところで、サトウにぐいと羽交い締めにされた。自由にもほどがある彼には、まだ人間の生活が根付いて居ない。だから余計に、200年の歳月の中で初めて触れたこの世の文化が物珍しく、その上自分をその儀式的な催しに誘ってくれたチョコレートが嬉しくって、こんなにも大はしゃぎしている。
「まずはありがとう、君にはありがとうが溜まってる。バレンタインの贈り物、あのチョコレートってのは最高だった。それと、君のおかげで寂しがり屋のモーリィが少し男らしくなった、それから」
「もういいだろ、全部ひっくるめて花束にしたって自分で散々僕に語ったじゃないか、兄さん暇だからって、ほっとくと余計なことばっかり言う!」
「大したことじゃない、200年の、ほんの一瞬の話くらい許せよ。それよりお前、ありがとうが足りないんじゃないの?」
「僕は兄さんより一緒にいる時間が長いんだ、ちゃんとこまめに伝えてるさ!」
今日のサトウは、よく喋る。黙ったら負けだと思い知っているから。今日のしろはにこやかで、いつもよりもっと聞き上手。いや、黙っておくことが、余計な刺激を与えて二次災害を生まない最良の手段だと、彼女もまた良く知っているから。まあ厄介な人に、うっかりチョコレートを渡してしまったものである。ほんの少しの呆れによる脱力感と、だけどちょっぴり楽しい気持ちで、気がつけば口角が自然と上がっていた。バラのブーケを見る度に、今日の事を思い出せたらいいなだなんて、しろは小さく笑いをこぼしたのだった。
おもむろに、フリードがしろの肩を捕まえ覗き込む。
「ところで、しろ。君、ファーストキスはまだだよね?」
硬直して首を縦に振るしかないしろに、一言、じゃあ配慮しようと頷き返し、フリードが右ほほにキスをする。硬直に次ぐ、硬直。先を越されたショックとばかり、慌ててサトウが左に唇を押し当てたら、許容量を超えた彼女のタガがばあん!!と弾け飛び、廊下を絶叫が駆け抜けた。
さて、この事件現場で“チョコレートのお礼に祝福しただけだ”と主張する兄弟と、床でうずくまる彼女。スズキを連れて駆けつけた実の妹がじきに揃う事になるのだけれど......結末は来年の今頃、笑える思い出話になった頃にでもご披露したい。
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Happy WD!! :)
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