第二話 続イントロ「入隊」
秘密結社 路地裏珈琲
第二話 続イントロ「入隊」
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飛空艇の中は異様な静寂に包まれていた。マスター達の声は勿論、物音一つしない。恐る恐る部屋から猫達が顔を覗かせるが、静かなようで張り詰めた空気の前に毛を膨らますばかりで一歩も外に出る気配はなかった。程なくして、機内の廊下に転がっていたひとつの無線から、急にガサついた物音がし、今回の冒険はここから始まることになる。
「......やあ、僕の可愛い珈琲屋さんたち、無事だと信じて独り言を呟くよ。聞こえてるといいな」
漏れ出てきたサトウの一言は、お世辞にも機嫌が良いとは言えない声色。断片的に聞こえる雑踏に、時折イトウの反抗する声とタナカの情けない喋り声が混ざり込む。時間が無いと、一方的に告げられた内容は、全員の背筋を冷え上がらせた。彼らは現在、連行されて、街の最深部にある軍の本部へ向かっている。そして、どうやらこのまま、投獄される見込みだ......それも、何故かタナカだけ。他は全員付き添いと事情聴取で帰してくれると言うのだが、相手の態度を見るに最早それも信じがたく、何がどうなっているのかまるで分からない。飛空艇の機体証明書を持って、タナカが促された通り質疑応答に応じたら、急に軍部の偉そうな奴が顔色を変えたのだという。
「僕とイトウくん、タナカはあてにならないと思って。ついでに言えば、残った連中を掻き集めて迎えに来てくれると助かるよ。美術館組とスズキさんは、うまいこと巻いて街に散った。バリスタ達は、数日前兄さんの船に配達に送り出した後、今日僕らを追って合流する予定だった......このまま、事が済んだ頃に戻って来てくれると良いんだけれど」
背後で威圧的な男の声がタナカに何か厳しく追及しては、それに対して間の抜けた“違いますー、存じ上げませんー”の台詞が、コールアンドレスポンスのように繰り返されていた。サトウの独り言をかき消すための、とぼけた必殺技は予想以上に時間を稼いでくれたが、偉そうな彼の苛立ちは増すばかり、そう長くもちはしないだろう。
「さあ、名残惜しいけど時間がきた。多分この後、船にガサ入れが入る...そこに居ると危険だ。全員すぐに支度を整えて、街の移民受け入れ窓口で入国手続き、つまり入隊志願を済ませること。軍部に紛れ込めば、逆に安全だし好都合でしょ。中でまた必ず逢おう、良い1日を」
珈琲屋が厄介ごとを呼び寄せるのか、それとも厄介ごとに好かれるのか。さてはて、この街での滞在も、忘れられない思い出になりそうだ。無線の雑音から秋那兎が書き起こしたメモを片手に、空蝉の熱を抑えたアナウンスが、アナログのパイプ式拡声器を伝って廊下中に響き渡った。
“全員退避を開始して下さい、健闘を祈ります”
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移民に紛れ込んで、軍の入隊試験を受けることになりました。
旅先のコミュニティで自由に音源を提出して下さい。
https://nana-music.com/communities/1032578
入国手続きが済むと、音源によって役職や位を与えられ、街でサービスを受けられるようになります。
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