あの日、手を引かれ
レミオロメン
あの日、手を引かれ
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世界樹にたどり着き、落ちている枝や調度良い木を見つけては斧を振り回す。薪がだいぶ集まり、休憩のため適当な岩に座る。ふと気づくと奥にアグルの好きな火舌の実と呼ばれる唐辛子によく似た植物の群生地を見つけた。
「いいねぇ、俺は本当に運がいい…」
一服を終え、早速火舌の実を収穫に向かう。これだけあれば、温かい料理にスープ、体を温められるメニューを作り放題だ!頭の中で何を作ろうか、ワクワクしながら考えをめぐらせていると…
「うそだろ!降って来やがった!!」
つい調子にのり、かなり高台まで進んでしまったらしい。目覚めだした冬の精霊が彷徨くエリアにうっかり足を踏み入れていた。まだ秋の名残が消えないというのに、粉雪がちらつき始めた。せっかくの楽しい気持ちが台無しだ。体が寒さで軋み出す。
「…ミュー…」
近くで猫のような鳴き声が聞こえた。声のする方を見やると、黒い猫又が震えていた。丁度いい、この魔族を狩って毛皮の手袋でも作ろう。ナイフを取り出し猫又の元へ歩み寄ると、その猫又はまだ幼く、仲間とはぐれたのかやせ細り弱っていた。ゴウッ!と雪混じりの風が2人の間を走った。
冬は嫌いだが、特に雪は大嫌いだった。冷たくて、溶ければ水になってさらに体温を奪う。なにより、その雪を払う手が無ければ…容赦なくこの身に積もるのだ。
アグルは戦により孤児になった。親は必死に彼を守ったが、半神であるが故に自らの強すぎる魔力に体が耐えられず、彼の命を守る事と引き換えに敵を全滅させ、焼け死んでしまった。
ショックと孤独、絶望のあまり、アグルは動くことも出来ず、焼けてなくなってしまった家の跡地にずっと蹲っていた。雪が降る寒い夜の事だった。
夜明けが近づき、彼の頭や肩に沢山の雪が積もっていた。髪色も石炭の様に真っ黒に染り、体の感覚はもうとっくに無くなっていた。このまま死ぬのかな…そう思い始めた頃、朝日を遮る影を感じ、硬く固まった体をなんとか動かし、その影を見た。
「おいおい…兄ちゃん。せっかく繋いでもらった命をよ、無駄にするのは許されねぇぜ?」
厳しく、そしてどこまでも優しい響き。温かな手で体に積もった雪を払ってくれたのは、体中に古い傷の走った屈強なドワーフだった。
「悪ぃな。拾ってやるのが俺みたいな裏の奴じゃなくて、もっと真っ当な奴だったら良かったのに。でも、見殺しには出来ねぇんだよ…」
「…ミュー…」
「悪ぃな。拾ってやるのが俺みたいな裏の奴じゃなくて、もっと真っ当な奴だったら良かったのに。でも、見殺しには出来ねぇんだよ…」
少し積もった地面には、アグルの足跡。もう雪の降る世界樹の奥地には、猫又は居なくなっていた。
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小さな新しい相棒が出来ました。
(良ければ名前を付けてあげてください)
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