あの空をもう一度【Ryu 短編】
ナブナ
あの空をもう一度【Ryu 短編】
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…しかし、夜空葵かぁ。話に聞いてはいたが、あまり凝ったものは手を出さなかったなぁ…
お茶を作るニフを見ながらぼんやりと考えた。家の中もなんとも質素である。忙しいのもあるが、何かを作りこんだり、飾り立てる事をしてこなかった。
喉が乾けば水か世界樹の茶。食事も肉に塩を振ったものだったり、商店街で買ったパンをそのまま食べていたり…彼のスタイル全てがそうであった。生活に必要なものだけで形作られた、彼と彼の空間。
「さぁ、出来ましたよ!やっぱり夜空葵のお茶は色が最高なんです!」
と、ニフは彼女持参の水晶のカップにお茶を注いだ。するとお茶の量が増すにつれて、夜の闇が深まるように色が濃くなっていく。しかしどれだけ暗くなっても、葵の花粉が光を反射し、まるで夜空の星のように煌めいた。
「…」
美しさにしばらく無言でRyuは魅入っていた。
その姿に満足したように微笑むニフ。
「泪石を入れて沸かした水は淡く甘みがあるように感じられて、飲むとすごくほっとするんです。なら、お茶にしたらきっと香りも色も足されて素敵な眠りにつけるだろうなって思って」
あぁ、自分だけだったら…Ryuは思った。自分だけだったら泪石の用途の範囲以上の使い方をしなかっただろうな…きっとこの美しいお茶の色も知らずにいただろう。
「更に更に…」
ニフはレモンを取り出すと、数滴お茶に垂らした。すると、みるみる淡い赤に変わっていく。
「まるで…朝焼けだな」
へへん!とますます満足気なニフ。ならば…と早々にお茶を飲み干し
「今度は俺の番だ。葵、借りるぞ」
とキッチンに向かい、全くおなじお茶を差し出した。
「…?同じお茶じゃないですか」
「まあ…見てろよ」
そう言うと、ポットを開けて中の泪石を取り出してニフのカップに入れた。
「そろそろのはずだ…」
……シュー…ポフッ。と石から小さな破裂音が聞こえたと思うと、カップの中に、フワリと輝く光の玉が舞っていた。
「泪石の寿命だ。何度か熱して使い続けるといつしか割れて破片がぼんやり光って溶けるんだ。小さいものだったから、きっとそろそろ限界だと思って」
ニフのカップを眺めてRyuは説明した。
美しさに食い入るように見つめるニフの目の前で、レモンを絞った。
カップの中はまるで…明けを迎えてもまだ光り続ける蛍の空を切り取ったようだった。
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たまには少し手の込んだ事もいいな…そう思いながら、ぐっすり眠りました。
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