🎼 暇ならわかり合おうぜ 🎹
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🎼 Viva la Orquesta !! 🎹
第四幕『戦場にオーケストラは要らない』第一楽章
マッチとシンジュを仲間に加えた一行は、山から降り次の目的地へと向かっていた。その道すがら、マッチは不思議そうな顔でレクトールにこう尋ねた。
「お兄さんってさ、前世軍人かなにかだったの?」
「え? 僕が? ……うむ、正直に言って前世の記憶が全く思い出せなくてな。でも僕は争いごとが嫌いだから、きっと音楽に従事する仕事に就いていたんだと思う。演奏家や、作曲家や、そんなところだろう!」
記憶が無いと言いつつ自信たっぷりに答えるレクトールに、マッチはクスクスとからかうような声を上げ、彼の前を歩いていく。
「そっかぁ。私たちの氷の膜を自力で破れる体力とパワーがあるんだから、それこそ戦争にでも行っていたのかと思ってたけど、違うんだね」
「ああ。好んで争うことはしないよ」
「……じゃあ、次の場所はちょっと辛いかもしれないね」
二人の会話に紛れ込むようにして、シンジュが口を挟んだ。彼女が言うには、ジェイカー山脈を降りた後すぐに見えるガスティア平野という地域は、戦争で命を落とした者たちが、今もさ迷いながら争いを続けている戦火の地らしいのだ。
「地獄の中でもかなり野蛮なところだって、もっぱら噂だよ。無事抜けられるといいけどね」
「むむ、そうか。でもきっと平気だ! 音楽の力があれば、どんなに強い軍人でも心を開いてくれるさ!」
「……。本当、お兄さんって頭お花畑すぎて困るよ」
呆れたようなマッチの声とともに、一行は赤茶色の土に足を踏み出す。ここは山の麓。ついにガスティア平野へと辿り着いたのだ。
「よう、お前らイイもん持ってんじゃねぇか!」
ガスティア平野を歩くこと一時間。案外平気だなと談笑していた彼らの元に、山賊のような出で立ちの屈強な罪人たちが姿を現した。彼らは皆狩猟銃を手にしており、にやにやと下卑た笑みをこちらに向けていた。
「な、なんだ君たちは……!」
「はっ、男はお前だけか? この辺りを通るにゃ随分と腑抜けた集団だなァ。本当ならこの場で肉塊にしてやるところだが……見たところお前ら、値の張るもんもってんな。楽器か? そいつを渡してくれりゃあ見逃してやるぜ」
男は一方的にべらべらと喋ると、レクトールの腕の中に抱えられた楽器ケースを体当たりで奪おうとした。
「ぐっ、何をする!」
ケースをしっかりと抱きかかえ、必死に抵抗を試みるレクトールだったが、数人の男に囲まれてしまっては逃れるのは絶望的だった。仲間たちだけでも何とか逃がさなければと声をあげようとした瞬間、三発の乾いた銃声が鳴り響き、レクトールを囲んでいた男たちが一斉に倒れ伏した。男達の体は、そのままサラサラと灰色の砂のように崩れ落ち、やがては形を無くしてしまった。
一体何が起こったのだと顔を上げるレクトールの目に飛び込んできたのは、銃を抱えた黒髪に眼鏡の青年と、彼の後ろに怯えた様子で隠れているくせっ毛の少年だった。黒髪の青年は、警戒した目つきでレクトールたちを見下ろした。
「その連中は、旅人をターゲットに盗みを働く罪人たちです。お見受けしたところ、皆さんは連中から被害を受けていたようでしたが……。答えてください。貴方がたは、僕たちの敵ではありませんね?」
「ああ。敵じゃない。僕たちはただここを通りたいだけなんだ。……助けてくれ」
レクトールは、仲間たちを庇うように前に歩み出ると、楽器ケースをそっと地面において、降伏する兵士のように両手を上げた。それを見て、黒髪の青年は害は無いと判断したらしい。眼鏡の奥のカーキ色の瞳を細め、銃を下ろした。
「そうですか。疑ってすみませんでした。この辺りには危険な連中が大勢うようよしていますから、よろしければ僕たちの住処で休んでいかれませんか?」
「い、いいのか……?」
「もちろん。アルマ、この方たちを案内してあげて」
「は、はい、アドルフさん!」
アルマと呼ばれたくせっ毛の少年は、レクトールが置いた楽器ケースを丁寧に持ち上げると、ぎこちないながらも笑顔を作り、先頭だって歩き始めた。
「こちらへどうぞ。この先は中立地帯なので、襲われることはまずありません」
おどおどとした彼の様子は、とても戦争に関わる罪人とは思えなかった。つくづく、人は見かけによらないなと考えながら、レクトールはアルマの後について歩きだした。
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ねぇ考えなくてもいいよ
口先じゃ分かり合えないの
この音に今は乗ろうよ
忘れないでいたいよ
身体は無彩色 レイドバック
ただうねる雨音でグルーヴ
ずっと二人で暮らそうよ
この夜の隅っこで
(音楽は好きです。音はけっして裏切らないから)
(争いは嫌いです。何も生まないというのは嘘です。何も生まないというのならばまだマシです。この先は、言いたくない)
ねぇ不甲斐ない僕らでいいよ
って誘ったのは君じゃないの
理屈だけじゃつまらないわ
まだ時間が惜しいの?
練り歩く景色を真空パック
踏み鳴らす足音でグルーヴ
まるで僕らはブレーメン
たった二人だけのマーチ
さぁ息を吸って早く吐いて
(この呼吸も、言葉も、歩み寄るためにあるのに。どうして僕は、彼を撃ってしまったんだろう)
精々歌っていようぜ 笑うかいお前もどうだい
愛の歌を歌ってんのさ あっはっはっは
精々楽していこうぜ 死ぬほどのことはこの世に無いぜ
明日は何しようか 暇ならわかり合おうぜ
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🌔アルマ(cv:水縹ろくろ)
Illust:琉伊
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〖PLAYLIST〗
vol.1
https://nana-music.com/playlists/4117492
vol.2
https://nana-music.com/playlists/4117493
#HEL_L_ETTER #LA_ORQUESTA
#WhiteYouzy伴奏 #ヨルシカ #ブレーメン
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