🎼 心拍数が 破裂しそうなほどに 🎹
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🎼 Viva la Orquesta !! 🎹
第三幕『柔い音色は春を呼ぶ』第二楽章
レクトールを助けるためには、シンジュを感動させなければならない。そんな条件を突きつけられた四人は、真っ先にオルケスタを見やった。ふわふわと空中飛行していたオルケスタは、四人の視線を受けて今後すべきことを察したらしい。身体を光らせて、次々に楽器を吹き出していった。
『感動、かんた~ん! 音楽の魔法、見せる!』
オルケスタの言葉を合図に、四人は顔を見合せて頷きあうとそれぞれの楽器を手に取った。きっと大丈夫だという確証があった。レクトールは彼女たちの音楽を、人の心を動かすことが出来ると評してくれたし、日に日に上手くなっているという手応えもあった。四人は息を合わせて、音に想いをのせて、精一杯に吹ききった。しかし……
「……なぁに、これ。必死すぎて音色どころじゃないね。リズムもバラバラだし強弱もついてない。ただ一生懸命音をなぞりましたってだけ。君たちの音楽は不完全みたいだね。はい次」
シンジュの意見は冷徹で、けれど思い当たる節が幾つもあった。思い返してみれば、練習の時はいつもメトロノームに合わせて、もしくはレクトールの指揮に乗せて吹いていた。決められたリズムと言われるがままの表現でしか楽器と向き合ってこなかった。レクトールは褒めてくれたけれど、四人はまだ、この音を完全に自分のものには出来ていなかったのだ。
「……確かに、貴方の言う通りだわ」
唇を噛み締めてセレナが俯くと、他の三人も同様に項垂れる。その様子を見て、シンジュとマッチはにんまりと目の縁を上げた。
「そうかそうかぁ。じゃ、負けを認める?」
「それじゃつまらないよ。この先にある賭博場でパーッと派手にゲームでも……」
シンジュが可笑しそうに提案しかけたその時。舞台の上から、ピシッとひび割れたような音が鳴った。その音は、一定の感覚を保ちながら、徐々に大きさを増していく。音はどうやら、氷の標本にされたレクトールの内側から響いてくるようだった。
「な……まさかお兄さん、自力で氷の膜を破ろうとしてるつもり!?」
「今まで、氷化の力を解いた者なんていなかった。物理的に不可能なはず……」
二人が驚いている間にも、ひび割れの音は止まない。楽器を手にした四人は、そのリズムが、先程の曲のものと酷似していることに気がついた。
「レクトールが、指揮、してくれてるの?」
「そうかもしれないわ! ふふっ、今なら吹けそうな気がする」
「よし、もう一度やってみよう」
「そうね。皆、準備はいい?」
セレナの合図に従って、四人はもう一度高らかに音を重ねる。今度はちゃんと周りの音を聞いて。隣合う者同士に伝え合うように。舞台の上の彼にも届くように。
「……あは、急に何? さっきとは比べ物になんないじゃん」
「ふふっ、あははっ、すごいなぁこの人たち!」
マッチとシンジュは顔を見合わせると、幼い子どものように無邪気に笑いあった。その瞬間、舞台上で氷の膜が弾け、中からしたり顔のレクトールが姿を現したのだった。
─────────────
生前、マッチとシンジュはとある孤児院で育った。その孤児院では、毎年一人優秀な子どもが選ばれ、国随一の劇団の一員になることができた。当然二人も、いつか煌びやかな劇団に身を捧げることを夢見ていた。
ある年の冬。シンジュが劇団からスカウトを受けた。マッチは悔しがりながらも、シンジュの門出を誰よりも大きな声で祝った。シンジュはきっと素敵な舞台でお星様のように輝いているはずだ。その想像を励みに、マッチは冷たい水で手を真っ赤にしながら仕事をこなし、選ばれる日を待っていた。
シンジュが出ていってから数年後、遂にマッチも選ばれる時がやってきた。意気揚々と馬車に乗り込み、荘厳な劇場に辿り着いた彼女。しかし、希望に満ちたその目は、舞台裏の様子を見た途端消え失せた。
舞台裏には、孤児院の子どもたちよりボロボロの服をまとった何人もの少女たちが、虚ろな目をして雑用を命じられていた。そこでマッチは初めて、自分が騙されていたことに気がついたのだ。呆然とするマッチの目の前に、あの頃よりずっと痩せ細ってしまったシンジュが姿を現した。彼女は泣きそうな目をしながら、掠れた声で「ごめんね」と呟いた。
それからは生き地獄のような日々だった。大道具の処理、何十人もの衣装の洗濯、大道芸に使われた獣の世話……数人の少女たちに強いるにはあまりにも過酷な重労働が、毎日大口を開けて待っていた。やがて、一人二人と過労で倒れていく者がいた。そんな彼女たちの行く末は、地下にある巨大な冷凍庫。既に死んでいようがまだ息があろうが関係無しに、動けなくなってしまった者からそこに放り込まれた。心も凍るような寒さの中で、助けを呼ぶことも出来ず死へ向かう少女たちは、一体どれだけ悔しかっただろうか。そんな惨状に嫌気が差したマッチは、ある日シンジュに計画を持ちかけた。
その日の夜、舞台裏から逃げ出した獣が、劇団員たちの部屋に忍び込み、次々に彼らを食い殺していった。何が起こったのか分からぬまま、体を引き裂かれていく彼らの目に最期に映ったのは、痩せこけた顔に歪んだ笑顔を乗せた怪物のような少女たちだった。
劇団員たちの最期はあまりにもあっけなくて、マッチとシンジュは手を繋いで走りながら、ざまあみろと大声で笑った。身体はずっと火照っていて、息も絶え絶えになった二人の足は、自然と冷凍庫へ向かっていた。
「わぁ~、すずしい!」
「疲れたねぇ。でも、復讐できて、良かった……」
「うん、うん。ちょっと休んだら、二人で電車に乗って、孤児院まで、帰ろうね」
ふうっと長く息を吐く。燃えそうなほど高揚した身体が、急激に冷やされていく。今は少しだけ眠ろう。眠って起きたら、きっと素敵な朝が来るはず。
二人は手を取り合ったまま、ゆっくりと目を閉じた。そして二度と目覚めることは無かった。
─────────────
「そうだ。君たちも一緒に来ないか? 大舞台に立ちたいという野心が、ずっと透けて見えていたぞ。きっと良い奏者になる」
敗北を悟ったマッチとシンジュに、レクトールはサラリとそう言ってのけた。あんなに憤っていたはずのシェイやフローラも同様に頷いているのを見て、驚きを通り越して呆れた二人は、いつかのように大声で笑った。
「あははっ、確かにその通りだけどさ。自分たちに危害を加えてきた相手を仲間にしようとするなんて、すっごくイカれてる!」
「でも、楽しそうじゃない? この子達と行くの。地下の娯楽は狩り尽くしちゃったし」
『じゃあ決まりー! 二人にピッタリのキラキラ~!をあげる!』
オルケスタが二人の頭上を旋回すると、眩い光が舞台上に降り注いだ。光が解けた後、そこには眩く光る金色のユーフォニアムとチューバが置かれていた。
「うわぁ! 重そ~! でも、すっごくキラキラしてて綺麗だね!」
『二人、ずっと地下で頑張ってた。縁の下の力持ち~! だからこれあげる!』
「……君は私たちのことを肯定してくれるんだね。ありがとう」
シンジュが手を伸ばし、オルケスタの表紙を撫でると、オルケスタは嬉しそうに彼女の肩に擦り寄った。その様子を見て、レクトールは満足そうにお決まりの台詞を呟いた。
「行こう、次の街へ」
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🍸伸ばした指を かすめるほどに
🏵熱く鳴らすよ
🎼涙目爆発音
(🍸この場所に不満なんてなかったはずだけど)
(🏵彼の目指す世界を見てみたいと思った)
🏵↑🍸↓涙目 Hah
🪄どうして辿り着けない どこにある未来
かすかな残像を ああ 掻きむしって
🏵🍸明るい日を目指して 歯ぎしりの輪廻
🪄何も変わっちゃいない 迷宮入りだよ
🪄YES NO 🏵🍸YES NO
🪄そう YES NO 🏵🍸YES NO
胸に問いかける
前向く力は残っているか
(🪄何を迷う必要がある! 僕のオーケストラには得意不得意なんて関係ないんだ)
🏵ああ ごめんね🍸ごめんね
ああ ごめんね…
🍸少しだけNOって言いかけてしまうけど
(🏵ゲームは私たちの負けかもね)
(🍸そんなはず......いえ、そうね、きっと─)
🏵泣け!
🎼伸ばした指を かすめるほどに
つかみたい宇宙の果てまでも
🏵心拍数が 破裂しそうなほどに
🍸熱く鳴らすよ
🎼涙目爆発音
(🪄行こう、次の街へ)
─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙──────
🪄レクトール(cv:日向ひなの)
🏵マッチ(cv:ゆうひ)
🍸シンジュ(cv:唄見つきの)
Thumbnail:蓬
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〖PLAYLIST〗
vol.1
https://nana-music.com/playlists/4117492
vol.2
https://nana-music.com/playlists/4117493
#HEL_L_ETTER #LA_ORQUESTA
#マクロスΔ #マクロス #涙目爆発音 #ワルキューレ #ゆんコラ
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