Saloon
Carpe Noctem☾⋆
Saloon
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𝟏𝟑 : 𝐋𝐞𝐭’𝐬 𝐬𝐡𝐨𝐰𝐭𝐢𝐦𝐞.
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生き方を間違えたかもしれない。漠然とそんなことを考え始めたのは、いつ頃からだっただろうか。間違えた、と断定したいわけではない。間違えたのかもしれない。そんな些細な疑問、小さな違和感にすぎない。だけどなんとなく、喉の奥に引っかかった小骨のような、指先に刺さったままの小さな棘のような、一抹の違和が拭えないでいる。母親に強制されたわけじゃない、敷かれたレールの上を歩んでいるだけじゃない。私自身が、反抗しないことを選んだだけだ。そんな風に自分を誤魔化し続けているうちに、二十歳を過ぎてしまった。心構えの出来ないうちに大人になることを迫られて、気付けばラインを踏み越えていた。お酒が飲める。煙草も吸える。学生であることが唯一の免罪符で、それももうじき終わりそうになっている。間違えたかもしれない。子供時代を振り返ることが出来るようになって初めて、底知れない後悔が芽生えた。これまで誤魔化しと見ない振りを続けて、自分の心に向き合うことから逃げていた罰かもしれない。向き合いたくても、向き合い方が分からないのだ。ただ言葉にならない不安と焦燥と後悔があって、その原因を見つめる方法が分からないのだ。だからまた誤魔化すしかなくて、逃げるように煙草に手を出した。母親が嫌がるようなことをすれば、変われるような気がしたから。道を踏み外してみれば、新しい世界が見えるかもしれないと期待したから。だけど面と向かって反抗してみせる勇気はなくて、期待を裏切ることも出来なくて。後ろめたさを覚えながら、一人きりの夜の時間に無意味に秘密を作っている。秘密を作ることで、誰かに見つけて欲しかったのかもしれない。叱って欲しかったのかもしれない。大人になったつもりで、大人になったことを受け入れられなくて、子供じみた反抗を繰り返している。その先に何があるのかなんて、想像もつかないまま。
とうに陽の沈んだ冬の夜空を遠くに見やりながら、悴んだ指先に息を吹きかけた。煙草に灯った小さな火が、ちらちらと辺りを照らしながら燃えている。少しずつ灰に変わっていく白い葉巻きを、口にすることなくただ眺めていた。澱のように溜まっていく虚無感を燃やしているようで、実際には灰が残るたびに虚しさが募っていく。どこかで女生徒のはしゃぐような笑い声が上がって、すぐに遠ざかっていった。羨ましいな。素直な本音が声になりかけて、掻き消すように苦笑する。「王子様」なんて大層な呼び名を賜ってから十年弱、特別扱いをされることには──人の輪に混ざれないことには慣れていた。詩希さんは特別だから。いつもそうして一線を引かれたまま、距離が縮まることはなかった。嫌われていたわけではない。むしろ好かれていたと思う。容姿に恵まれている自覚はあったし、成績だって申し分ない。身体を動かすことも得意だ。誰にでも優しくて人当たりも良い、我ながら完璧な人間だと思う。だからこそ私は、常に特別であることを求められた。一段上に立っていることを求められた。誰かと特別に親しくすれば、誰かが怒る。「抜け駆けなんて許さない」「詩希様はみんなのものなんだから」。頼んでもいないそんな特別扱いを、最も望んでいたのは母だった。誰からも羨まれ愛される、選ばれた特別な存在であること。私がそうあることが、母にとっての誇りだった。だから幼い頃からハイブランドの服を着せられ飾り立てられていたし、成長期になって背が伸びれば王子様のようだと褒めそやされた。母は間違いなく私を愛していたし、大切に育ててくれていたと思う。だけど私の希望は、何一つ聞いてくれなかった。友達と遊びに行きたかった。自分で服を選んでみたかった。何度頼んでも、許されることはなかった。
「あなたは、勉強しなきゃいけないでしょ」
「お母さんの言うことを聞いていればいいの」
「詩希、あなたのために言ってるのよ」
母はきっと、正しかったのだと思う。母の言うことを聞いてきたから、私は一度も学年首位から転落しなかった。かねてから希望していた法学部にトップで進学出来たし、先生からの覚えも良かった。だけど何度も誘いを断り続けていたから、とうとう誰かに誘われることはなくなった。詩希の家は特別だから。自分たちとは違うから。一度引かれてしまった線は、何年経っても消えなかった。慕ってくれる人はいても、本音を話せる友達は出来なかった。期待という重い荷物を背負ったまま、独りぼっちで歩き続けているような気分だった。
友達が欲しかった。今更作り方なんて分からなかった。毎日あれほど人に囲まれているのに、人との距離感を上手く測れなかった。近付かれすぎると怖い。一体何を考えているのかと、疑い勘繰って疲れてしまう。だけど離れすぎると寂しい。どこに味方がいないような気がして、時々心細くなる。自分でもとことん面倒だと思う。恋人が出来れば何か変わるのか、なんて馬鹿らしいことを考えたりもする。あの母が彼氏なんて許してくれるはずもないから、結局は堂々巡りだ。半分以上燃えた煙草に溜息を吐けば、上から声が降ってきた。
「先輩、それ何本目ですか……」
呆れたような声に顔を上げれば、吸い込まれそうな深い黒色と目が合った。天瀬実琴。ある夜に偶然出会った工学部の後輩で、私の秘密を知っている唯一の存在。彼女はこれまで出会った人々と比べても、不思議な人だった。無闇に距離を詰めてくることはなく、だからといって無関心を貫いている風でもない。出会ってすぐの頃はおっかなびっくりといった様子だったけれど、最近は人一人分くらいの間隔をおいて、私に接してくれる。すれ違うよりは近くて、隣にいるよりは遠い。そんな曖昧な距離感が、なんだか心地よかった。
「久しぶりだね、実琴」
ひらりと手を振って言葉を返せば、胸のつかえが降りたような気がした。実琴と過ごす時間は楽だ。彼女は私に対して、何も期待しない。何も押し付けてこない。「王子」と呼ぶ時さえどこか揶揄い混じりで、聞き分けの良い優等生を演じる普段の私に対する労いのようなものさえ感じるのだ。実琴のそんな態度に触れると、彼女と同じ目線で話をしているようで、なんだか擽ったい気分になる。期待も落胆もしない、気軽で対等な関係。肩肘を張らないで、笑いたい時に素直に笑えるような関係。そんな繋がりを結ぶなんて生まれて初めてだったから、彼女との時間はいつも新鮮だった。こういうのを、「友達」と呼ぶのだろうか。友達と呼んでも、いいのだろうか。
「いい加減に禁煙しないと、身体壊しますよ」
困ったような、呆れたような、不思議な表情をして実琴は言った。叱るみたいな、慈しむみたいな、そんな顔。ぴったり言い表す言葉があるはずなのに、見つけられなくてもどかしくなる。誰かに止めろと言われるなら、きっと世間体が理由になるのだろうと思っていたのに。実琴は、私のことを思ってくれていた。こういうの、なんて言ったっけ。私がずっと、欲しかったもの。
「なんで、心配するの?」
声に出してみれば、その言葉はすとんと心の中に落ちてきた。あるべき場所に収まったみたいに。私はきっと、誰かに心配されたかったんだ。大事に思われていると、誰かに証明してほしかったんだ。
「なんで、って……どうしてなんでしょう……」
私の問いかけを受けた実琴は、視線を彷徨わせて真剣に考え始めていた。適当に流しておけばいいのに、彼女は変なところで真面目だ。真面目で実直で不器用で、私とはまるで正反対。彼女のそういうところを、気に入っているのかもしれないのだけれど。
取り出しかけた煙草をしまって、代わりに昼休みに買ったチョコレートの箱を取り出す。口寂しくなったら食べようと思っていた新商品だ。
「実琴、口開けて」
突然の私の言葉に、実琴はぽかんと素直に口を開けた。まるで雛鳥みたいだ、と笑みが溢れる。彼女の口にチョコレートを一粒放り込み、自分でも摘んで食べてみる。想像していた甘さはそこにはなくて、代わりにとびきりの苦みが広がった。意を突かれてパッケージを見直せば、右端にあったのはカカオ80%の文字。急いでいたから見落としていたらしい。
「あ、美味しい」
甘くないものをチョコレートと呼ぶなよ、なんて身勝手なことを考えていると、実琴は小さな声でそう呟いた。私には苦すぎたチョコレートを、実琴はお気に召したらしい。こういう小さな違いを見つけるの、やっぱり友達っぽいかもしれない。小さな子供みたいに心を弾ませれば、何も変わらないはずの日常が、ほんの少しだけ軽くなったような気がした。
『たからもの』
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𝐋𝐲𝐫𝐢𝐜𝐬*
🍸醒めない夢に壊れ始めた
🗝そっと凍る様な藍 賞味用のAI
如何しようも無いの
🍸咲いた花が晴れやかに舞う
🗝心は今 刹那に散りゆく Saloon
(🍸code me)
🍸割り切った乾杯の合図
🗝飲み干したエーテルの胎動
🍸冴え出した人生を前に畏み
🗝鳴り響く幻聴 湛えて
🍸神経 仕舞い込んだ水槽
🗝剥き出しの感性 溢した
(🍸code me)
🍸掲げた両天秤 壊して
🗝大それた格言に滾るわ
🍸撒かれた白片に眩んで
🗝然らば奪い去る御礼
🍸🗝消せない声に狂い始めた
逸そ飲み込んで藍 取り込んでAI
如何しようも無いの
ケセラセラと花弁が舞う
心は今 刹那に消えゆく
🗝宣伝前から知っとけ
寧ろ千年前から追っとけ
🍸秋冬春Summer
春去るfireworks
翼を授かるflyer
🗝Let’s showtime
先ずはあなたから招待
🍸イカしたサロンは口外無用の出口は無い
それじゃ一杯どうぞ
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𝐎𝐫𝐢𝐠𝐢𝐧𝐚𝐥*
Saloon / R Sound Design様
https://youtu.be/zEezpM56vYU?si=P2A0JGlX6E-ulolN
𝐂𝐚𝐬𝐭*
🍸水縹 詩希 (cv.おと*°)
https://nana-music.com/users/8312441
🗝天瀬 実琴 (cv.蓬)
https://nana-music.com/users/6551018
𝐓𝐚𝐠*
#Carpe_Noctem #Yuzの単発企画
#水縹詩希 #天瀬実琴
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