神曲
Carpe Noctem☾⋆
神曲
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𝟏𝟎 : 𝐈 𝐨𝐧𝐥𝐲 𝐰𝐚𝐧𝐭 𝐭𝐨 𝐬𝐡𝐚𝐫𝐞 𝐲𝐨𝐮𝐫 𝐬𝐢𝐧 𝐰𝐢𝐭𝐡 𝐲𝐨𝐮.
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ざあざあと、地面に叩きつける雨音に目を覚ました。目を閉じたままで耳を澄ませば、夜に落ちていく雨垂れが聞こえる。紅羽は、雨が嫌いだ。どこまでも降り続く終わりの見えない暗がりには気分が滅入るし、低気圧のせいで鈍い頭痛にも苛まれるから。夜の街で雨宿りの場所を探すのも億劫で、だから雨の日は蒼依に会いに行くのだ。雨の日の蒼依は、普段よりほんの少し機嫌がいいから。仲間と馬鹿みたいに騒いで明けていく夜も好きだけれど、それだけでは満たせないものがある。楽しいかどうかを軸に回る紅羽の判断基準に、唯一適合しない存在。同じ場所にいるから騒いで付き合っている、他の友人とは違う。どんな花よりも宝石よりも価値のある、誰にも渡したくない自分だけの大切。それが、蒼依だった。真面目で不器用な彼女が紅羽だけに見せる、微かに綻んだ笑顔が好きだった。紅羽だけの知る綺麗なその表情に、優越感を抱くようになったのはいつからだろう。独占欲を抱くようになったのはいつからだろう。少なくとも、その感情にラベルを貼る言葉を知るよりずっと前に、紅羽は蒼依に執着していた。彼女が一番に頼ろうとする存在が、自分でなければ気が済まなかった。知ったような口を利く大人にも、事なかれ主義な彼女の友人にも、蒼依を委ねたくはなかった。蒼依を理解出来るのは、自分だけだと思っていたから。
なのに高校に上がった頃からずっと、蒼依は紅羽を避けようとしている。蒼依の学力ならもっと上の学校にも行けただろうに、わざわざ紅羽と同じところを選んでおきながら、紅羽と距離を置こうとする。自己矛盾しているような彼女の言動が、紅羽は気に入らなかった。蒼依は、孤独になりたがっているように見えた。母親の帰らない家に閉じこもって、世界から切り離された独りぼっちでいようとしているように見えた。だから紅羽を拒絶して、関わりを断とうとしているように見えた。それでどうしたいのか、紅羽には分からない。他人の手を煩わせることを厭う彼女のことだから、あらゆる関係を断ち切って自己憐憫に浸りたいのかもしれない。そうすることでしか救われないと信じ込んでいるのかもしれない。だけど、そんなものは救いではないと紅羽は思う。救われたとしても、ほんの一瞬だけだ。後に残るのは虚脱感だけ。そうしてふらふらと、夜の街に飲み込まれていった仲間を何人も見てきた。孤独を拗らせて、どこにも行き場を失って、誰かの隣で過ごすことを幸福の形だと思い込んで。危ない話や色事ばかりに稼いだ金を費やすようになった人を、何度も目にしてきた。夜の街で連んでいる紅羽ですら足を踏み入れたことのないその場所に、目を離せば蒼依はふらりと消えてしまいそうな気がする。真面目な彼女のことだから、きっと一歩を踏み出す前のハードルは高いけれど。何かの拍子に自棄になって、一度足を踏み外してしまえば、きっともう戻っては来られない。そうなったが最後、紅羽がどれだけ手を伸ばそうが彼女の元には届かなくなってしまう。もともと蒼依には信じた何かを盲信するきらいがあった。紅羽の知る中で、サンタの存在を最後まで信じていたのも蒼依だった。彼女のもとに、プレゼントが届いたことは一度もなかったのに。彼女が幸せを誤認すればきっと、もう紅羽には見向きもしなくなるだろう。だから決して、彼女の手を離してはいけないのだ。これは紅羽のエゴなのかもしれない。自分は散々素行不良を重ねておいて、幼馴染にはそれを許さないなんて。だけど紅羽はどうしても、蒼依を留めておきたかった。きっと中身はそんな身勝手な我儘で、それでも紅羽はこれを愛だと思った。
夜の乾いた空気に肌寒さを感じて、そっと毛布を引き上げる。相変わらず鳴り止まない雨音が耳朶を打った。隣に眠る蒼依が、うなされているように微かに眉を顰める。整った顔立ちが歪んで、今にも泣き出しそうに見えた。また悪い夢でも見ているのだろうか。彼女が穏やかな寝息を立てているのを見た記憶がない。そのことを思うたびに、毎夜こうなのか、と不安になる。一番近くにいるはずなのに、蒼依は自分の考えをほんの少しも覗かせてくれない。孤独も不安も寂しさも、何もかもを独りきりで閉じ込めては無かったことにする。蒼依が不幸だと嘆くなら、その何倍も紅羽が幸せにしてやりたいと思っているのに。蒼依は一人で勝手に諦めて、伸ばしかけた手を下ろしてしまう。紅羽を拒絶して、関係を断ち切ろうとする。そのたびに紅羽は無理やりにでも踏み込んでいくけれど、その真意が伝わっているとは思えない。どうすれば、蒼依に分かるのだろう。何も諦めなくても、紅羽を頼ってくれればそれでいいのに。幼い子供をあやすように、綺麗な長い髪をそっと手で梳く。彼女の悪夢を奪ってやりたかった。
雨は変わらずに降り続き、窓の外には灰色の雲だけが広がっていた。
『I love you、の代わりに』
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𝐋𝐲𝐫𝐢𝐜𝐬*
🕯️下らない日々を追い越して
柔らかい午後とキミの笑顔で
🧊唐突にかかる赫の魔法に
ボクの理性が崩れてく
🧊憂鬱な日々を抜け出して
眠らない星とキミの呪文で
🕯️夜空に放つ蒼の魔法は
ボクの悪意を誘う
🧊「知らない世界を見せてよ」
🕯️「二度と此処に戻れないよ?」
🧊「キミがいるならそれでも」
🕯️「それじゃ息を止めて…」
🕯️🧊最低なボクは堕天をなぞる
敬虔に咲く薔薇を摘んで
触れた棘から歪な愛が流れてく
放縦に塗れ佇んでいた
引き返せないドアに触れる
そんな罪を抱えたままでいたいだけ
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𝐎𝐫𝐢𝐠𝐢𝐧𝐚𝐥*
神曲 / R Sound Design様
https://www.youtube.com/watch?v=_n-IayJaLt8
𝐂𝐚𝐬𝐭*
🕯️夕永 紅羽 (cv.くろ)
https://nana-music.com/users/1544724
🧊流川 蒼依 (cv.朔)
https://nana-music.com/users/2793950
𝐓𝐚𝐠*
#Carpe_Noctem #Yuzの単発企画
#夕永紅羽 #流川蒼依
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