帝都群青
Carpe Noctem☾⋆
帝都群青
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𝟎𝟗 : 𝐘𝐨𝐮 𝐭𝐚𝐤𝐞 𝐦𝐲 𝐛𝐫𝐞𝐚𝐭𝐡 𝐚𝐰𝐚𝐲.
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「夜にかけて雨が降る」なんて嘘をついた、スマホの天気予報に溜息を吐く。ほんの少しだけ期待したのに、曇天の空は一滴たりとも涙を流さないでいた。一面の灰色が月も星も覆い隠して、どんよりと憂鬱に濁っている。窓から外を見下ろせば、鈍色の空のことなど気にも留めずに、煌々と街の明かりが瞬いていた。紅羽は今、どこで何をしているのだろう。いつもの不良仲間と連んで、夜の街を闊歩しているのだろうか。そんなことを考えてしまったせいか、眼下の明かりがやけに眩しくて、乱暴にカーテンを閉め切った。暗い部屋を取り巻く孤独が、静寂の中で浮き彫りになる。外を歩けないほどの雷雨が、街を埋め尽くしてくれたらよかった。そうすればきっと、紅羽は隣にいてくれたのに。
午前一時の淀んだ空気が、緩慢に蒼依の首を締めつける。死なない程度に優しく、呼吸を阻んでは瞼を押し下げる。耳を塞いでいただけの無音のイヤホンを床に放り、ベッドに身を委ねる。一日誰とも話をしていないせいで、声の出し方を忘れてしまったかのようだった。何もかもが億劫になって、息をするのも嫌になる。目を瞑っても眠りに落ちることはなくて、浮かぶのは他愛ない追憶ばかり。もはや面影すら曖昧な、怒鳴り声だけが記憶の片隅に引っかかっている父親。去年の夏に、一冊の通帳だけを残して出て行った母親。蒼依が何もかもを失っても隣にいてくれた、紅羽と過ごした夜。隣の部屋から聞こえてくる、紅羽の家族の笑い声。思い出すたびに、叶うはずのない虚ろな願いが零れる。
紅羽も、孤独だったらよかったのに。寄る辺のない独りぼっちでいてくれたらよかったのに。そうしたら二人で手を取って、知らない場所まで逃げ出せたのに。紅羽には、蒼依と違って大切な家族がいる。蒼依には、紅羽しかいないのに。二人でどこかへ逃げ出そうと持ちかけたところで、きっと断られるのだろう。そう思うたびに惨めになるから距離を取ろうとするのに、紅羽は蒼依の腕を掴んで離そうとしない。あたしから逃げるな。傲慢にもそう言って、蒼依を縛りつけようとする。その度にまた、勘違いを繰り返す。自分は紅羽に必要とされているのだと。蒼依は決して紅羽にとっての唯一無二ではない。頭ではそう分かっているのに、離れるなと言われるたびに嬉しくなる。二人きりの夜を重ねるたびに、縋らずにはいられなくなる。蒼依の孤独は紅羽でしか埋められないから。それでも繰り返すうちに、また気付いてしまうのだ。蒼依のすべてを捧げたところで、紅羽のすべてを埋めることは叶わないのだと。だから掴まれた手を振り払おうとして、紅羽が離してくれないでいる。蒼依が離れられないでいる。曖昧な関係を引き摺ったままで、雨の夜が訪れるたびに二人で眠るのだ。それは蒼依にとってたった一つの救いであり、同時に処刑台に立たされているような残酷な時間だった。紅羽という光に縋ってしまうからいっそう、孤独の時間が耐え難いのだと分かっている。それでもどうしても、蒼依は彼女を求めずにはいられないのだ。
目を閉じても一向に眠れない夜が辛くて、枕元の睡眠薬に手を伸ばす。白い錠剤が二粒、手のひらの上に零れ落ちた。それと同時に、ベッドに放ったスマホが震えて着信を知らせる。慌ててスマホに手を伸ばせば、乾いた音を立てて錠剤が床に転がった。画面を見なくとも、誰からの連絡かなんて分かりきっていた。電話を取ると、夜の雑音と共に聞き馴染んだ声が耳に飛び込んでくる。
「蒼依? ちょっと出てこいよ。いつもの……ドラッグストアの前のとこにいるから」
会いたいと願ってしまったせいだろうか。離れたいと祈ってしまったせいだろうか。電話の向こうの紅羽が、傲岸不遜に言い放つ。今、何時だと思っているのだろう。丑三つ時手前を示す時計に、溜息がこぼれそうになった。蒼依が起きていると確信していたのだろう。その通りではあるけれど、反射的に電話を取ってしまったけれど、言われたまま素直に飛んでいくのもなんだか癪だった。そのまま通話を切られそうな気配を察し、慌てて口を開く。渇いた喉から零れた掠れ声は、なんだか知らない人のものみたいだった。
「……何、こんな時間に」
愛想のないそんな返事を受けて、紅羽は可笑しそうにからからと笑った。
「月。ちょうど満月で、綺麗だったからさ。お前と見たいと思って」
なんでもないように告げられたその言葉に、急激に体温が上がるのが分かった。心拍数が跳ね上がって、反射的に通話を切ってしまう。カーテンを開ければ、先ほどまでの厚い雲は切れ切れになり、紺碧の夜空が覗いていた。紅羽はこれを見て、蒼依に連絡したのだろう。こんな深夜にわざわざ、二人で月を見るためだけに。満月を見て一番に、蒼依のことを思い浮かべたのだろうか。嬉しい、なんてことを思ってしまった自分が嫌になった。明日になればまた、膨らんだ孤独感に押し潰されて、眠れなくなるだけなのに。理解していてもなお、今だけは。紅羽に寄り添っていて欲しかった。部屋着から着替えてコートを羽織り、白い息を弾ませ駆け出していく。点々と並ぶ街灯が、夜の街に落ちた影を長く伸ばしていた。
『I could die for you.』
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𝐋𝐲𝐫𝐢𝐜𝐬*
🕯️窓に滲んだネオン
眠る君の肩抱き寄せ
🧊こうやって僕はまた独り
流れてゆく文字見詰める
🕯️止め処ない夜が
蒼然にそう悠然に謳う
🧊誰も望まぬ明日を
永遠に遠ざけておくれ
🕯️🧊もう二度と眠らないこの街で
唯君と愛だけ探した
僕の心を染める群青に
侵されて息も出来ぬまま
𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ☪︎⋆˚
𝐎𝐫𝐢𝐠𝐢𝐧𝐚𝐥*
帝都群青 / R Sound Design様
https://www.youtube.com/watch?v=wAA2A_Vr2u0
𝐂𝐚𝐬𝐭*
🕯️夕永 紅羽 (cv.くろ)
https://nana-music.com/users/1544724
🧊流川 蒼依 (cv.朔)
https://nana-music.com/users/2793950
𝐓𝐚𝐠*
#Carpe_Noctem #Yuzの単発企画
#夕永紅羽 #流川蒼依
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