レテノール
Carpe Noctem☾⋆
レテノール
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𝟎𝟔 : 𝐈 𝐰𝐢𝐬𝐡 𝐈 𝐜𝐨𝐮𝐥𝐝 𝐠𝐢𝐯𝐞 𝐲𝐨𝐮 𝐥𝐨𝐯𝐞.
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夜闇に染まった孤独な部屋に目を閉じれば、胸の奥で心臓が弱々しく震えていた。死にゆく星の瞬きのような、少しの物音で簡単に潰えてしまいそうな鼓動。そのまま消えてしまえばいいのにと、途切れることのない拍動を呪った。人は愛されるために生まれてきたのだ、なんて薄っぺらい誰かの言葉を聞いたことがある。生まれた意味が、生きていく意味が、愛されることだというのなら。幸せになることだというのなら。誰にも愛されない莉沙は、何のために生きているのだろう。不倫先で生まれた子供である莉沙は、初めから生まれてくることを望まれていなかった。それでも生きることを強いられて、今もこうして莉沙の心臓は鼓動を刻み続けている。
「……死ねればいいのに」
だだっ広いワンルームに、ぽつりと言葉が落ちた。死にたいなんて、軽率に言ってはいけません。中学の頃に耳にした、幸福に酔った教師の説教を思い出す。死にたいなんて言ったら、あなたを大事にしている人が傷付くでしょう。あなたに死んでほしくない人が、悲しい思いをするでしょう。そんなことを言えば、あなた自身も傷付きます。だから絶対に、死にたいなんて口にしてはいけません。その言葉を聞いて、初めに覚えたのは苛立ちだった。それなら私が死にたいと言えば、先生はどれだけ傷付いてくれるんですか。そんなことを聞いてみたかった。もしも尋ねていたらきっと、彼女は莉沙を叱りつけていたのだろう。綺麗ごとという正義を盾にして、自分の見たくないものを拒絶したいだけだから。もしも莉沙の「死にたい」に誰かが傷付いてくれるのなら、思い切り傷付けてやりたかった。ナイフを振り回すように言葉を凶器にして、心臓を滅多刺しにしてやれたならよかった。そうして血塗れの愛の中で、安心して笑いたかった。他人の希死に心が痛むのだとしたら、その感情は紛れもない愛だ。そんな愛をくれる誰かを、莉沙はずっと求め続けていた。だけどどこにもいないから、独りぼっちで凶器を持て余すしかなかった。死んでしまいたい。そんな勇気などないくせに、何度も何度も繰り返した。傷付いてくれる誰かを探しながら、暗闇の中で呪文のように唱え続けていた。偉ぶった先生の教えは、最後だけが正しかった。そんなことを言えば、あなた自身も傷付きます。莉沙はきっと、傷付いていたのだ。だからその傷を埋めてくれる他人を求めて、夜の街を彷徨っていた。誰かの存在を確かめたくて、歓楽街に入り浸っていた。名前も知らない他人でも、一夜を明かせば、その時間だけは虚しさが埋まるような気がしたから。
なのに彼女と出会ってから、すべてが狂ってしまった。ななせ。死にたいを続ける代わりに、彼女によく似合う三音を小さな声で呟く。屈託のない笑顔で莉沙の名前を呼ぶ、一番星のような彼女の表情が脳裏に浮かんだ。たったそれだけのことで、胸が締めつけられるように痛む。七星がしつこいナンパに絡まれているのを助けたあの日から、莉沙は彼女と夜を過ごすことが増えた。とはいっても、夜が明けるまでずっと隣にいるわけではない。日付が変わるまでの、僅か数時間。たったそれだけの短い間、莉沙は七星のものになる。人通りのない夜道で手を繋いで、キスをして。真っ赤になって恥じらう彼女の頬を撫でて、満たされた心地に包まれる。これまでの莉沙には、考えられないようなことだった。たった一人にこれほど心を寄せるのも、決まった誰かを愛おしいと思うのも。全部七星が初めてのことだから、痛くて怖くてたまらない。彼女と出会う前までは、莉沙は誰かにとって消耗品に過ぎなかった。たった一夜を共にして別れる、後腐れのない関係。一ヶ月も経てば積み重なった日々に埋もれて、消えてしまうような有象無象。それは莉沙にとっても同じことだったし、面倒のない関係に満足しているはずだった。莉沙はただ、傷を舐めてくれる誰かが欲しかっただけだから。永遠なんてないのだと両親の姿を見て知っていたから、執着するのも執着されるのも嫌いだった。七星に対してだって最初は、ちょっと揶揄うくらいのつもりだったのだ。昼の世界を生きる彼女とは、二度と関わることなどないだろうと思っていたから。だがその予想に反して、七星は再び莉沙のもとを訪れた。その献身を、初めて嫌でないと思った。彼女が莉沙に心を砕いてくれていることに、歓喜している自分がいた。初めて芽生えたその感情は、彼女との夜の逢瀬を重ねるにつれて、段々と大きなものに変わっていった。彼女が欲しいと思った。手放したくないと思った。彼女に愛されたいと願ってしまった。莉沙のことだけを見ていて欲しかった。そんな醜くて汚い願いが膨らむにつれて、怖くなった。この願いを叶えたいと望んでしまう日が、来るのではないかと思ってしまったから。七星のことが好きだ。きっと、愛していると言えるのだと思う。だけどその想いは、叶えてはいけないものだ。どれだけ好きになったところで、七星と莉沙の道が交わることはないのだから。夜を生きる空っぽの莉沙と違って、七星は昼の世界で生きるべき人だ。太陽の下で光を浴びるべき人だ。だからもうこれ以上、七星と会うべきではないのだ。会って話をすれば、無邪気なあの笑顔を向けられれば、もっと好きになって、もっと苦しくなるに決まっているから。
それでもふらりと外に踏み出した足は、歓楽街を外れた七星との待ち合わせ場所へ向いていた。莉沙にとっての七星は、毒のような太陽、もしくは仄暗い夜に灯る誘蛾灯だ。いずれ自分の身を滅ぼすと分かっていても、縋らずにはいられない。自分がこれほど弱い人間だなんて、思ってもいなかった。口端に浮かべた微笑が引き攣って、泣きそうに歪んでいく。冷えた空気が肌を刺す夜に、弱々しい星明かりが滲んでいた。
『Last Presuicide』
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𝐋𝐲𝐫𝐢𝐜𝐬*
🫧群青に飲まれた街に
あふれそうな気持ち持ち寄って
💍寝れない今日を 痩せた明日を
呪文のように唱えてる
💍曖昧に染まる想い
(🫧進行形で問題抱えて 流線型のヒントは霞んで 結局見つけられない 航海図を)
🫧揺れる二つの影
(💍現在形の後悔抱いて 紡錘形の感情砕いて 享楽的な群像混じり漂うだけ)
🫧もどかしい日々を何度もなぞって
💍手にしたものに意味があるかな
💍🫧柔らかな翅を夜空に浮かべて
冷たい空気に身体を預けて
欲しいものなんて1つも無いのさ
震えてるその手を伸ばして
星には願いを 君にはそう 愛を
両手に咲く花は全て預けて
残るものなんて1つも無いのさ
この夜が流れてく
(💍透明な翅を拡げ泳ぐ星空 僕たちもそうしていられたら)
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𝐎𝐫𝐢𝐠𝐢𝐧𝐚𝐥*
レテノール / R Sound Design様
https://youtu.be/GOkdbXhdJjk?si=Numf4nmcnlFJdIte
𝐂𝐚𝐬𝐭*
💍氷室 莉沙 (cv.りる)
https://nana-music.com/users/5982525
🫧望月 七星 (cv.小日向奏乃)
https://nana-music.com/users/5171643
𝐓𝐚𝐠*
#Carpe_Noctem #Yuzの単発企画
#氷室莉沙 #望月七星
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