カトレア
Carpe Noctem☾⋆
カトレア
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𝟎𝟑 : 𝐈 𝐚𝐦 𝐜𝐚𝐫𝐯𝐢𝐧𝐠 𝐦𝐲 𝐬𝐨𝐮𝐥 𝐢𝐧𝐭𝐨 𝐭𝐡𝐢𝐬 𝐰𝐨𝐫𝐥𝐝.
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社会人になって一年弱、とっくに日常の光景になった地下鉄の構内を抜け、地上へと続く階段を上っていく。俯いて歩くくたびれたサラリーマンに、スマホに何かを打ち込みながら歩いている女子大生。まばらな人影に紛れて、優香は一人溜息を吐いた。何かがあったわけではない。今日の仕事は比較的順調で、普段よりも一本早い電車で帰ることが出来た。特段褒められることもなく、叱られることもなく。任された業務を淡々とこなして、もうすぐ入社して一年経つのか、と考えただけだ。ぐるぐると、同じ日々を繰り返している気がする。平日は気を張りながら懸命に働いて、休日が来たら寝溜めをして、適当に時間を潰して、時々気になったカフェに出かけて。変わらない一週間を繰り返し続けて、いつの間にか一年が経とうとしている。こんな日々が、あとどれだけ続いていくのだろう。人生の大半を費やして、誰かのために同じ毎日を続けていくのだ。優香が今まで見てきた大人たちは皆、こうして生きてきたのだろうか。学生の頃は、何かと違った忙しさに追われていたような気がする。昔を懐かしむ、美化された記憶なのかもしれないけれど。当時は当時で、色々と大変だったのだろうと思う。クラスの友達付き合いとか、周りに合わせるのが大変だとか。今となっては遠い記憶で、何をそれほど悩んでいたのか不思議に思えるほどだ。一つ後悔があるとすれば、何かに打ち込めばよかった、ということだろうか。高校時代の部活も大学のサークルも、友達に合わせてなんとなく選んで、それほど夢中になることなく終わってしまった。それも一つの青春の形だったのかもしれないけれど、今でも楽器やスポーツを続けている元同級生を見ると、ほんの少し羨ましく思えてしまう。
「優香さん!」
あどけない声に呼ばれて、はっと顔を上げる。駅前のビルから、こちらに手を振って走ってくる文乃の姿があった。今日も遅くまで勉強していたのだろう。優香は両親に言われて渋々塾に通っていたような学生だったから、塾に対してポジティブなイメージはないのだけれど、塾帰りの文乃はいつも満足げな表情をしている。
「お疲れ様、文乃ちゃん」
そう言って微笑むと、優香さんもお疲れ様です、と無邪気な返事が返ってきた。そのままいつものように並んで、優香にとっては少し遠回りの道を歩く。余程さっきの授業が楽しかったのか、文乃は声を弾ませて語った。二次方程式の解の公式を導き出せるのが楽しかったとか、覚えたばかりの英単語の語源を教えてもらって、それが意外だったとか。勉強から離れて久しい優香には懐かしい話題ばかりで、文乃の話を聞いているのは楽しかった。
「文乃ちゃんは、勉強のどういうところが好きなの?」
ふと気になって、そう尋ねてみる。突然そんなことを聞かれるとは思っていなかったのだろう。驚いたように目を丸くして、文乃は考えるように首を傾げた。
「知らなかったことを知れることと、出来なかったことが出来るようになること、でしょうか……?」
それだけでは答えになっていないと思ったのか、なおも文乃は考え込んだ表情になる。定期テストで平均点さえ取れれば満足だった優香にとって、文乃の勉強への情熱は不思議に思えるものだった。今だからこそそれを彼女の個性として受け入れられるけれど、もし同級生に文乃のような子がいたら、理解出来なかったかもしれない。
「小学校を卒業するときに、大好きだった担任の先生が教えてくれた言葉があるんです。勉強を頑張ると、世界の解像度が上がるんだよ、って。今まで見えなかったものが、点と点を繋ぐみたいにどんどん浮かび上がってきて……普段暮らしている世界が、もっともっと綺麗で面白いものに変わっていくんだって。それを聞いて、文乃は感動したんです。文乃が勉強を好きなのは、そういう理由なのかもって。だから、先生の言葉を借りれば、世界の解像度が上がるから、だと思います」
大事な宝物を取り出すように、文乃は一つ一つ丁寧に言葉を紡いだ。世界の解像度を上げること。そんな話は、優香もどこかで聞いたことがあったかもしれない。優香が聞いたときは、自分には関係のない話だと思っていたけれど、文乃はその言葉に感動したのだ。世界が、もっと綺麗で面白いものに変わっていく。優香の世界も、そうなのだろうか。変わることのない日々を繰り返すだけだと思っていたけれど、今からでも遅くないのかもしれない。知らなかったことを知ること。出来なかったことが、出来るようになること。それで世界が鮮やかになるのなら、すごく素敵なことのように思えた。
「私も、本とか読んでみようかな……文乃ちゃん、おすすめがあったら教えてくれる?」
そう尋ねると、文乃は満面の笑みを浮かべて、はい! と頷いてくれた。ほんの偶然の出会いが、世界の見方を変えてくれる。文乃にとっての勉強も、そんな存在なのかもしれない。彼女の見ている世界を、ほんの少しでも覗いてみたい。互いに一人きりで歩いていた夜の帰り道が、偶然交わったように。
静まり返った夜の住宅街に、二人の小さな笑い声が響く。確かに広がり始めた世界を見守るように、月が煌々と輝いていた。
『Crossing of the worlds』
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𝐋𝐲𝐫𝐢𝐜𝐬*
⚖️駆ける今日を抱きしめて
時を止めて 変わる時代を掴む
📓僕の魂は世界の果てに咲いたカトレア
⚖️甘い夢物語 優しいだけ誰のためでもない言葉
📓嘘をつく者だけが正しい道進んで行けるの?
⚖️街の影に紛れて 遥か未来 手を伸ばして
📓旅立つ日を悟って 茜色に染まる
⚖️📓駆ける今日の光となれ 闇を裂いて
変わる時代を照らす
僕の魂を世界に刻む 開けカトレア
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𝐎𝐫𝐢𝐠𝐢𝐧𝐚𝐥*
カトレア / R Sound Design様
https://youtu.be/vkCKcSmpC6M?si=aHVnWt5RcPjDwmYm
𝐂𝐚𝐬𝐭*
⚖️和泉 優香 (cv.07)
https://nana-music.com/users/96726
📓夕永 文乃 (cv.瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
𝐓𝐚𝐠*
#Carpe_Noctem #Yuzの単発企画
#和泉優香 #夕永文乃
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