ソノリティ
Carpe Noctem☾⋆
ソノリティ
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𝟎𝟐 : 𝐖𝐡𝐚𝐭 𝐬𝐨𝐧𝐠 𝐬𝐡𝐚𝐥𝐥 𝐰𝐞 𝐩𝐨𝐮𝐫 𝐢𝐧𝐭𝐨 𝐭𝐡𝐢𝐬 𝐰𝐨𝐫𝐥𝐝?
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二十二時を過ぎた夜の住宅街は、しんと静まり返っている。ぱらぱらと細かな雨粒が、傘に当たって音を立てた。車が水溜まりの飛沫を飛ばす音が、遠くに聞こえている。参考書の詰まった重い鞄を、濡れないようにぎゅっと引き寄せた。文乃の小さな傘では、気をつけていないと荷物を守りきれない。隣を歩く優香さんが、私が持とうか? と手を差し伸べてくれる。それはちょっぴり申し訳ない気持ちが勝って、大丈夫です、と首を振った。優香さんが隣を歩いてくれるだけで、文乃にとっては十分嬉しかった。塾が終わって一人夜道を歩くのは、ほんのちょっぴり寂しかったから。
優香さんと出会ったのは、一ヶ月前のことだ。正確に言えば、初めて話をしたのが、一ヶ月前のことだった。それ以前にも、姿を見かけたことはあった。塾が終わって帰る途中で、優香さんはいつも文乃と同じ道を通っていたから。その時はもちろん名前も知らないから、帰り道に一人じゃないことが少し嬉しくて、心の中で勝手に感謝していた。それからしばらくして、塾がなかったある日。学校の委員会が長引いた帰り道に、いつものお姉さんを見かけたのだ。駅からの帰りらしい。仕事が早く終わったのだろうか。そんなことを考えて、出来心でこっそり後をつけてしまった。ほんのわずかな好奇心。お姉さんが文乃に気付くことはなく、尾行には成功した。そしてその日、気が付いたのだ。お姉さんの通る道が、いつもと違っていたことに。文乃と一緒に歩くなら、お姉さんは遠回りをしなければならないことに。どうしてだろう、と疑問が頭をもたげて、ある仮説が浮かんだ。お姉さんはもしかして、文乃のことを心配して着いてきてくれたのだろうか。それがどうしても気になった文乃は、尋ねてみることにした。いつも通りの塾のあと、お姉さんに話しかけた。お姉さん、文乃に着いてきてくれてるの? お姉さんは慌てていた。まるで警察に見つかった犯人みたいな顔をして、文乃に向かって謝った。ストーカーをしていたわけではなく、文乃が一人で帰っているのが心配で、つい遠くから見守っていたらしい。謝られる理由がよく分からなかったので、これから塾がある日は一緒に帰ってほしいと頼んでみると、お姉さんは頷いてくれた。そこで初めて連絡先を交換して、お互いの名前を知ったのだ。和泉優香さん。クラスに馴染めない文乃にとって、初めての友達だった。
文乃は、優香さんと過ごす時間が好きだ。週に三回の短い時間だけど、文乃の話をこれほど真剣に聞いてくれる人と、初めて会ったから。誰かに悩みを相談するなんてしたことがなかったけれど、優香さんになら初めて話していいと思えた。
文乃は、勉強が好きだ。文乃は、勉強が好きだ。勉強を頑張れば頑張った分だけ、世界が広がるような気がするから。自分と違う誰かが書いた文章を、読み解こうとする時間が好きだ。ごちゃごちゃと複雑に絡み合った数式から、答えが導き出される瞬間が好きだ。地球の裏側で飛び交っている言葉の、一端を覗いているのだと思うとワクワクする。今まで何気なく見落としてきた些細なことが、学んで知識を得ることで意味を持つと嬉しくなる。だけどその気持ちを分かってくれる人は多くないらしい。クラスの子に言われたことがある。先生にヒイキされたくて、勉強ばっかりしてるんでしょ。その言葉の意味が、今でもよく分からない。文乃は、誰かのために勉強しているのではない。机に向かって教科書を読むのが、問題を解くのが、ただ楽しいだけなのだ。ドッジボールが好き。絵を描くのが好き。ゲームをするのが好き。そんなみんなの好きと並ぶように、文乃は勉強が好きだ。そう説明するけれど、誰も信じてくれなかった。文乃はドッジボールが嫌いだけど、ドッジボールが好きな人の気持ちは分かる。なのに勉強が好きな文乃の気持ちは、どうして誰も分かってくれないんだろう? そのことがずっと不思議で、話すともやもやした気持ちになるから、誰にも言わないようにしてきた。だけど優香さんは、文乃の話を笑わずに聞いてくれた。高校生になって、もっとたくさんの人と出会えば、分かってくれる人は絶対いるよ。広い世界に出たときに、文乃ちゃんの仲間はいっぱいいるよ。そんな優しい言葉をかけてくれたことが、文乃は心から嬉しかった。眩しい街灯に照らされながら、二人で夜道を歩く塾帰りの時間が、文乃は大好きだった。
駅から家までの十五分は、あっという間に過ぎていく。話したいことがたくさんあって、一日だけじゃ伝えきれない。塾がない日も会えたらいいなと思うけれど、優香さんは社会人だから、きっとお仕事で忙しい。それでも話したいことはいっぱいあって、ノートの1ページを埋めるくらいになってしまった。もう少し仲良くなれたら、勇気を出して聞いてみようかな。そんなことを考えて、文乃は今日も家の前で手を振る。また明後日。そんないつもの挨拶と共に、夜は静かに更けていく。
『Tangent of the world』
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𝐋𝐲𝐫𝐢𝐜𝐬*
⚖️朝の光 微睡む街
くすみ無い世界は蒼然に
📓泳ぐソノラ 響くソルファ
透明な空気が歌う
⚖️僕らいつの間にやら大人になって
やがて全て忘れて・・・
📓霞んだ瞳で見上げた空
虹が笑った
⚖️七色の
⚖️📓放物線が架かる未来を
夢見ては ただ息をしてる
境界線を跨ぐ勇気も
持てはしないのに
ビルの谷間で項垂れていた
僕たちの淡い希望の芽が
枯れないように 不器用に
どんな歌を注ごう?
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𝐎𝐫𝐢𝐠𝐢𝐧𝐚𝐥*
ソノリティ / R Sound Design様
https://youtu.be/hpHQUzzhLp4?si=HlS_St__l2LsgS4N
𝐂𝐚𝐬𝐭*
⚖️和泉 優香 (cv.07)
https://nana-music.com/users/96726
📓夕永 文乃 (cv.瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
𝐓𝐚𝐠*
#Carpe_Noctem #Yuzの単発企画
#和泉優香 #夕永文乃
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