抱きしめておいた物語
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ある晴れた日、家から少し離れたところにある野辺にたまたま足を運んだ時のことだった。
どこまでも続く青空の下に、やわらかな緑が一面に広がっている。
丘を登った先に、木陰にひとり佇む少女を見つけた。左右に束ねた黄金色の髪に、澄んだ桃色の瞳。手元の本をじっと見て、時々空を眺めて、また本の中身に視線を落としていた。会ったことはないはずなのに、なぜか話しかけたくなった。話しかけたいはずなのに、なぜかその場に立ち尽くしてしまった。
こちらの視線に気が付いたのか、その女の子が顔を上げると、本を閉じて詩月のところへ向かってきた。日陰にいたから気付かなかったけれど、太陽の光の下になびく黄金色は思ったよりも眩しかった。近くまで来ると、その子は詩月に話しかけてきた。
「わたしとあなたって、どこかで会ったことあったっけ?わたしが覚えてないだけだったらごめんね、なんでもすぐ忘れちゃうから」
「ご、ごめん、全然そんなことなくて……たまたま通りかかってぼーっとしてただけ、だから……」
用もないのに勝手に眺めていたことに気付かれて、咄嗟に口をついた謝りの言葉に、その子は不思議そうな顔をした。その直後、きらきらとした笑顔にぱっと変わり、嬉しそうに話の続きをし始めた。
「わたしの名前は綺星っていうんだ!あなたは?」
「えっと、私の名前は、詩月……」
「詩月ちゃん!あのね詩月ちゃん、今わたし本を読んでたんだけどね、文字とかが難しくてあんまり読めなくて……もし本読むの得意だったら、一緒に読んでわたしに教えてくれないかな?」
詩月は何かを覚えることが得意であるようだった。知らない字を勉強する度に、前まで読めなかった本もすぐに読めるようになっていくのが嬉しくて、難しい字もたくさん覚えていた。本もたくさん読んでいたから、周りの子より物事を多く知っていると自負していた。でも、そうじゃなくても、きっといいところを見せたくてうなずいていただろう。
「ここだと眩しくて読みにくいから、さっきの木陰に行かない?」
その日から、丘の上にある一番大きな木の下が、私たちの待ち合わせの場所になった。丘を登った先に綺星の姿が見えると、詩月は手を振りながら駆け寄った。雨が降った時は会うことができなかったから、そんな日は空が晴れるのを一日中待ち遠しくしていた。近くに星が綺麗に見える場所があることを知って、夜中に家をこっそり抜け出して、ふたりで流れ星を見に行ったこともあった。目を見張るくらい美しく尾を引く流れ星の下で、何気ない約束を交わした。ただ、綺星と過ごす時間が楽しくて、嬉しくて、なんとなく、今までもずっと一緒にいた気がして、そしてこれからもずっとそうなのだろうと思った。
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lyrics
🌙遠い夏の小さな記憶は
靴ひもを結んであげるところから
⭐️始まるのだ
大切に 失くさずに 忘れずに
抱きしめておいた物語
🌙…世話のやけるひとだからね
「ふたりはひとつ」と言えるかもね
⭐️驚くほど 無垢にまみれ
桃色と藍色は 手を繋いで
🌙⭐️小さな身体が約束をしたら
ひとつのゆがみも 為す術無く純粋だ!
恋のコの字も知らないからさ
ふたりは世界で 一番穢れなくいられる
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Cast
🌙詩月 -Shitsuki- cv.ほしぞら まや
⭐綺星 -Leila- cv.おとの。
Instrument
→ https://youtu.be/81JY_VYH5Uk
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