ただ差し詰めここから行き着くは愛
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自分と同じくらいの背丈の女の子が、背筋を伸ばし、足を揃えてちょこんと立っている。目が合うと、その子はいたいけな顔にふんわりとした笑みを浮かべた。ある日突然お家にやってきたその女の子を目にした灯愛は、モノクロだった灯愛の人生がこれから先鮮やかに色付いていく、そんな予感を覚えた。
灯愛は生まれつき体が弱いらしく、お家の中で過ごす時間がほとんどで、他の人に会ったことが数える程度しかない。ましてや同世代の女の子に会うことなんて一度もなかった。だから彼女が来た時とってもワクワクしたし、何よりとっても嬉しかった。
しかも、それだけじゃない。目元とか髪の色とか少し違うところはあれど、彼女の容姿は灯愛が毎朝鏡で見ている自分の姿とそっくりなのだ。お父さんやお母さんはあんまり外に出ない私が寂しくないように連れてきたって言ってたけど、でもこんなに似ているんだからきっと姉妹か双子だよね。急に家族なんだよって言われたらびっくりしちゃうから、隠してると思うんだ。ふたりの秘密をこっそり作るみたいにその話をする度に、彼女は優しい微笑みを浮かべて聞いてくれていた。
「ねぇ、なんでいつも私のお世話ばかりしてるの?」
ある日、唐突にそんな疑問が思い浮かんで、そのまま口に出した。そんなの、別に家族じゃない誰かにやってもらえばいいのに。彼女はいつも灯愛の様子や顔色を気にしていて、灯愛が何かしたそうにしていたらすぐに察知してくれる。なんだかそれが申し訳なくて、代わりに灯愛にできることを何か探そうとしたけれど、灯愛にはできることがあまりないとわかってしまって悲しかった。
「私は灯愛にできないことを補うために、頑丈にできています。だから灯愛の分まで頑張るのは当たり前のことです」
彼女は出会った時からずっと敬語で話をしている。前に理由を聞いた時、少し考え込む仕草を見せた後「私は敬語が“好き”なんです」と返事をしていた。敬語が好きって不思議だなと思ったけれど、今更驚くことでもなかった。彼女には不思議に思うようなところがたくさんある。思えば灯愛は、彼女のことについてよく知らないことの方が多かった。
灯愛が腑に落ちない表情をしていたからだろうか、彼女は少し考えてから言葉を付け足した。
「姉妹というものは、一般的には姉がしっかりしていることが多いと聞いたことがあります。もしも、灯愛の言うように私たちが本当に家族であるのなら、私は灯愛のお姉さんなのかもしれないですね」
突き放したはずの存在が、今、また灯愛の前に姿を見せている。思いもしなかったことに動揺し、我を失いそうになった。
トア。私と同じ名前。私と同じ容姿。姉妹とか双子とか、そういった運命的なものじゃない、当たり前のことだった。なぜなら、彼女は私の代替品なのだから。
自分の体が悪いことは知っていた。けれど、こんな方法で治そうと思っていたなんて。彼女が自分の代替品であることと同時に、両親のまるで人道的とは思えないような一面も知った灯愛は、二人のことを信頼することが到底できなくなったことも相まって、背中が凍りつくような恐怖を覚えた。怖くて気持ち悪くて仕方がなかった。私が私ではなくなることが。自分たちのために非人道的な手段を躊躇いなく取る両親が。最初から代替品であると知りながら、愛着を湧かせるような真似をすることが。トアという存在、それ自体が。
トアは自分が代替品であることを最初から知っていて、灯愛にずっと接してきたのだろうか。愛おしかったはずの彼女と過ごした日々の記憶が、フラッシュバックする度にたちまち真っ黒な泥へと変わって、灯愛の心の内側にこびりつき不快感を広げていった。
知らない光景の広がる街を行く宛てもなく彷徨っていたあの時、突然声を掛けてきたのは、同じくらいの背丈の一人の女の子だった。美葉と名乗ったその人物は、灯愛の姿に心当たりがあるから着いてきてほしいと言った。灯愛には他の人との面識なんてほとんどないのにと不思議に思ったけれど、そもそもこんなところに一人でいたらどうしようもないからと言われ、灯愛も自分と同じ姿をした人間である彼女に対して安心感を覚えたから、美葉のあとを着いていったのだった。
まさかその先に、彼女がいるなんて。心当たりとはこのことだったのかと、動揺が収まらない中少しだけ納得した。瓜二つの見た目なのだから、傍から見たら家族だと思われるだろう。本当は家族なんかじゃないのに。
心身を蝕むような不快感が溢れて止まらない。嫌だ。怖い。気持ち悪い。あなたなんかがいなくても、私は私のまま生きられるのに。生きたいのに。あなたなんか、壊れちゃえばいいのに。
おどろおどろしさに苛まれて浮かんだ感情が、言葉になってそのまま口から出ていってしまったのだろう。ふと我に返って前を見ると、美葉は驚いたような表情をしていた。トアは……顔色一つ変えず、その場に佇んでいた。人間じゃないから。心がないから。今までずっと一緒に過ごしてきて、私の考えや気持ちを理解したことなんか一度もなかったのだろう。
肥大化する恐怖で灯愛自身が壊れていってしまうことを恐れて、その場から逃げ出した。トアはその姿を見ても動こうとはせず、去っていく灯愛の後ろ姿を瞬きもせずに見つめていた。
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🖤あ、ちょっと君に伝えたい
何かがあったような
けったい真逆の踊るベール
サカサマだと知って
🕊好意とは魅惑のプログラム
ただ差し詰めここから行き着くは愛
🖤アイデンティティ それは嗜好のアイデンティティ
🕊アイデンティティ 唸れ 君一人のせい
🕊まだ捨てないで待って それは一つ二つのデスティニー
🖤繋げてハッピー 落ちる 流れ星と歪なあの星
🖤(🕊↑)La~
🖤(🕊↑)重なる面影に寄り添う そっと君に寄り添う
弾けだす視界 胸に飛び込むハート 光るあなたの
🖤🕊アイデンティティ
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Cast
🕊トア -Toa- cv.唄見つきの
🖤灯愛 -Toa- cv.07
Instrument
→ https://youtu.be/M9moY0hEJRE?si=BoZ5eGJnrw2Pn79u
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