漂泊者
DUSTCELL
漂泊者
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#フィナーレを君に
λευκός σωτηρία01/漂泊者
「逃げたい」
石膏の壁に、またひとつ傷がついた。
「この世の全てから、逃げたい」
だからずっと待っている。自分だけの天使を。
──現界には天使がいる。
天使。それは人間がつけた身勝手な呼び方である。
人と同じ形でありながら、白く美しい人ならざるもの。一般的に天使は人間の為に同じ形をとるとされる。
何故、人の為にその形をとるのだろう。
「病魔が巣食っているな、ナツメ」
ナツメ。そう呼ばれた人物はゆっくりと振り返った。
「……本当に?」
ナツメの視線の先には白く美しい二人がいる。まるで天使のような容姿だ。それ故に、人は二人を天使と呼んだ。
「そうでなければ私達はここにいない、そうだろう?」
長い髪を揺らしながら、二人がナツメへ歩み寄る。一人が頬に触れ、一人は柔らかく手を握った。
「ナツメ。今夜は外へ出よう」
黄緑色の双眸から目を逸らし、ナツメは窓の外を見た。もうすぐ日が落ちきって、辺りは闇に包まれる。離れた場所にある家の灯りが僅かに見えてくる頃だ。
何があるわけでもない。魔法も流星群も、秘密に覆われた世界の裏側だって存在しない。だが今日、二人はナツメを誘ったのだ。
「うん」
逃げたい。彼らと一緒に。
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ㅤ ㅤ Voice actor
ナツメ🧸てでぃべあ
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