それはあまりに人間的な
HaTa
それはあまりに人間的な
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Y-307の報告
これが初めての入眠管理でした。担当したのは作家を自称する老紳士で、ヨモツキさん……。私はあなたが分からない……。
失礼しました。ヨモツキさんは気難しい方でしたが、子供たちからはめっぽう人気でした。必要なカリキュラムをこなす傍ら、遊ぶことにも時間を割きたい彼らでしたが、大人は誰も忙しく、構う人がヨモツキさんくらいしかいなかったからです。自作のお話、といって古い物語をいくつか混ぜ合わせて語って聞かせていました。支離滅裂な内容なのに、子供たちは楽しそうに聞いていました。その時のヨモツキさんは優しげですが、私の前では常に不機嫌そうでした。でも、眠る日が決まってからずっと人間の話を私にするのです。親、兄弟、友達、この地域の人間の語るに及ばない日常を語って聞かせるのです。最後は自分の話でした。作家は単なる夢で、それと縁遠い生活を送っていたこと、結婚できると思っていた女性は別の男性と結ばれ、独り身で居続けてしまったこと、子供に良くするのはある種の償いであること。
「だからこんな老いぼれに枠を割かなくともいい」
そう言ってカプセルに入ろうとしないため、研究員を呼び、気絶した彼をカプセルに入れました。
私は彼に寄り添えなかったのでしょうか。人間のことをもっと彼から学びたかった。
個体番号137390、入眠確認。
#さめるまできみと
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