深昏睡
春野
深昏睡
- 77
- 16
- 0
𓆸𓏸𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓈒𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓆸
02
-hortensia-
報われない現実、
されど戦い続ける意志を
𓆸𓏸𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓈒𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓆸
「なぁ、アイツまだやってるよ…」
「あんなに稽古したって意味ないのにね」
ひそひそと囁かれるのは、僕への悪口の数々。初めはひどく傷ついたが、今となってはこれが僕の日常の一部である。いちいち反応していたらキリがないので、僕は無視して自主練習を続けた。
_____僕の夢は、世界的に有名な俳優になること。小さい頃にこの夢を叶えたいと強く思い、親に頼みこんで劇団に入れてもらった。だが、多少エキストラとして有名なドラマに出演したことはあっても、なかなか僕自身が評価されることはなかった。…でも、それでも。僕は夢を諦めたくなかった。だから、もっと本気で夢を追うために人付き合いを辞め、自分の演技力や芝居を磨くことだけに神経を集中させながら人一倍努力をし続けていた…のだけど。頑張っても認められない日々と、僕を異端者扱いする周囲の人々に疲れてしまったのか、僕は最近、自分のほうがおかしいのではないかと思い始めていた。
「そんなことない…はず」
少し前なら、そんなことない!と強く思えていたのに、僕はかなり弱くなってしまったようだ。ひとり重いため息をつくと、未だに喋り続けている劇団仲間を一瞥することもなく帰宅した。
「…ただいま」
ひとり暮らしの小さな部屋に、虚しく自分の声が響く。…くそ、今に始まったことじゃないのに、なんでこんなに悲しい気持ちになるんだ。僕は湧き上がってくる感情に蓋をするように、夕飯も食べずに眠った。
🥀
あたたかな風を感じて目を開けると、目の前にはアンティークな建物があった。…珍しく夢を見ているようだ。
「…いかにもここに入れって感じだな」
軽くノックをしてみると、中から落ち着いた声が聞こえてきた。誰かいるらしい。
「いらっしゃいませ」
建物のなかから現れたのは、青色の髪をした女性だった。雰囲気は大人っぽく、少し冷たい印象を与えるような目元ではあるものの、その声音は優しかった。
「中へどうぞ」
「あ、はい。お邪魔します」
彼女に続いて中に入ると、色とりどりの花と香りに迎えられた。…花を見るなんて、いつぶりだろう。
「少しお待ちくださいね、あなたにぴったりの花をお持ちしますから」
「えっでも僕、客じゃないというか…」
「ええ、分かっていますから大丈夫ですよ」
女性はそう言うとそのまま店の奥に入っていってしまった。よく分からないが、ここ以外行く場所もないし、おとなしく待っていたほうがいいだろう。しばらくすると、女性は花を持って戻ってきた。
「この花を、あなたに差し上げます」
「あ、ありがとうございます」
女性から花を受け取り、じっくりと眺める。
「えっと、紫陽花、ですよね。この花が僕にぴったり…?」
見た目も印象も、僕とは全然違うような。
「ええ。でも、あなた自身にというよりは、あなたの夢を応援するのにぴったり、と言ったほうが良いでしょうか」
女性はそう言うと、僕の目をまっすぐ見つめながら再度口を開いた。
「周囲の評価も、世の中も、簡単には変わりません。1番大切なのは、あなたが周囲に流されず変わらないでいること。…夢を愛し、夢に向かって辛抱強く努力を続けるあなたを、この花がきっと支えますわ」
「…!」
女性の一言一言が、僕の心に染み渡っていく。それは決して嫌なものではなくて、むしろ心地よくて_____
「あ、あなたは、一体…?」
気づけばそんな質問を口にしていた。夢だって分かってる、だけど…妙にリアルなのだ。
「ふふ」
けれど、女性はその質問には答えてくれなかった。代わりに小さな手が僕の額を優しく押した。途端に視界がぼやけてきて、少しずつ目が閉じていく。僕はそれに抗えず、また眠りに落ちていったのだった。
🥀
翌朝。普段より気持ちよく目覚めた僕は、机の上に置かれている花を見て目を見開いた。
「これ、あの人がくれた…」
丁寧に花瓶に生けられた紫陽花に、指でそっと触れる。…ほんの少し触れただけなのに、なぜだか全身があたたかくなったように感じた。応援されているような、そんな気がする。
「…応援してくれてるのは本当らしいな」
僕は久々に心からの笑顔を浮かべると、頬を叩いて気合いを入れ直した。
「絶対に諦めないで、頑張りますから。…見ててくださいね」
僕はそっと呟くと、心地よい気持ちのまま、稽古場へと向かった。
𓆸𓏸𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓈒𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬
分からないままで言った
「此処はそんなに寒くは無いから」
忘れた声は ねえこんなだっけ
潰れた視界なら此処もきっと
幸せであれるから
はっとした雨だって
置いていった傘だって
世界はあなたを救わないから
貰った靴で何処へ行こうか
きっと とうにお終いで
泣いてしまったことだって
全部抱えて落ちてあげるよ
最後まで離さないでいて
もう言葉は無いけれど
𓆸𓏸𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓈒𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓆸
💙紫陽花 cv.はいねこ
https://nana-music.com/users/7300293
伴奏︰春野様
イラスト︰ゆん様
SS︰琉伊
𓆸𓏸𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓈒𓂂𓂂𓏸𓍯𓂂𓂂𓇬𓈒𓂂𓏸𓇠𓇬𓆸
#深昏睡 #春野 #Reverie #バラ #紫陽花 #かすみ草 #ミモザ #スターチス #千日紅 #アナベル #ミナヅキ #ヘリクリサム #ブラックベリー
Comment
No Comments Yet.