蜥蜴の痣の武器屋 ジーグ
キタニタツヤ
蜥蜴の痣の武器屋 ジーグ
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キリエに降り立つ飛竜、女兵士はそのまま飛び去り3人は一旦別れた。そして数時間後ジーグの家に集まる事になっている。家に着き、客人二人を迎える為に準備をせねば…しかし移動後で疲れた…。誰もいない部屋、まだ沈んでいない太陽の光に照らされて埃が静かに舞っている。穏やかな沈黙の中でジーグは目を閉じる。
魔法が上手く使えず闇雲に練習した幼少時代…上手に魔法を操る友人がどれだけ羨ましかったろう…
心から尊敬する悪友と夢の武器を作り出した学生時代…圧倒的な才能と技術、そして自分より出来た人格のアイツにどれだけ羨望しただろう…
故郷を失い彷徨い続けた青年時代…街で幸せそうに笑い、温かな家、食事、家族の中に居る人々の幸せをどれだけ渇望しただろう…
キリエで根付いた時も、知らぬコミュニケーションの中に入る事は容易ではなかった。醜い痣が走る己の姿を必死に化粧で誤魔化し、人を避け、なるべく関わることなく…気付けば気難しい武器屋の店主。
『…惨めだ…』
少し痣が疼いた気がした。惨めだな。皆幸せそうだ、皆は沢山のものを当たり前に持っていて、皆は誰からも愛されながら道を歩いている…惨めだ、酷く酷く…惨めだ。
『…惨めだ…』
ジーグはまた呟く。ジーグの声は不思議と何かが重なるような音を放っている。しかし、ジーグは大きく息を吸うと不敵に笑った。
「本当に惨めだな!!〝そこ〟から出れないなんてな!!見てみろよ!この自慢の工房を!!見てみろよ!この自慢の銃を!!そして見てみろ…家にこの後友達が来るんだ…!そりゃ、私は全て失った。皆が過ごす当たり前を全て!!だがな、私は帰ってきたんだ!自分の力で!意思で!運で!仲間で!!」
『…惨めだ、羨ましい…見たかった』
「なら!変えればいい!手に入れればいい!見ればいい!!お前がそれを望めないなら、私を利用しろよ?私は手に入れた!そして手に入れ続ける!!絶望していたあの時に、今の状況を想像できたか?…でも、私はここに居るんだ…!!」
時の女神は微笑む。望もうと望むまいと時を流し続ける。選択は常に己にあるのだ。その傷が癒えるまで留まってもいい。傷を開こうとも抗ってもいい…縋りついて傷が膿むのを眺め続けても…答えも正解もない。…しかし私は…!
ジーグは何気なく腕を見た。…!痣が…消えている?上着を脱ぎながら鏡へと走る。そこには肌色に鱗がキラキラ光る綺麗な上半身が映っていた。
「…そうか」
先程まで興奮気味に叫んでいたジーグは静かに鏡に呟くと、服を着直し掃除を始めた。
「失礼しまーす」「邪魔します!」
もう空はゆっくりと赤みを落とし夜が迫る頃。普段の制服や甲冑姿ではない、街人のような二人が笑顔で扉を開いた。そのギャップがなんだか新鮮だな…ジーグは思った。
「…軽いツマミは作ってある。一人暮らしの料理のレベルだ、あんま期待すんなよ」
「いえいえ!私オススメのお店の惣菜!!沢山買ったのでガッツり食べられますよ!もう楽しみで楽しみで!!」
「…すまない、私はアヴァロンの銘酒を何点か…本当は持っと持っていきたかったが、バドンのダンス講師に捕まってしまってね。あのお嬢さん好戦的なんだよなぁ…一戦交えてきたら時間が無くなってしまって…」
そういうと二人は荷物をテーブルの上に広げる。ジーグの手料理も加わり、寂しい質素なテーブルが一気に華やかになる。見ているだけで心躍るようだ。3人は歓声をあげる。
「…ふふ、なんか街みたいですね」
ニフは笑った。
「この街は何も無い森だった…けれど一人の人間が人々を集め、建物ができ、店ができ、理事会が在中し…今ではこんなにも沢山の人の住む場所になっている」
…たとえそれが鬱蒼とした森だろうと、全てを失った人生だろうと…。テーブルに目を移す…中にはジーグの苦手な酒や食材も並ぶ。しかしそのひとつひとつも誇らしい顔でテーブルを彩っている。
「今日の主人公!何ぼーっとしてるんだ!?…さ、酒は皆持ったね?あの悲惨な事故からここまで来れた事、そしてこの集まりに心から感謝して…」
女兵士が音頭を取ってくれた。皆それぞれが選んだ酒を高々に掲げる。
「「「カンパーイ!!」」」
その後の時間はよくある風景で特別なことも無く、在り来りでよくある会話が繰り広げられるだけだった。見た目に反してバクバク食べまくるニフ、凛々しい顔の割に酒に即座に酔う女兵士、主役なのに何故だか世話役に回るジーグ。話も仕事の愚痴や気になる店の話、将来の夢…ありふれたものばかり。しかし、この三人が集まってありふれた話をする事、そのものが特別であり奇跡なのだ。
「本当に自分の人生を呪うよ。どんだけ辛かったと思う?…見えてるか?バロール…お前が私の体でものを見ようとした…これが結果だ。私はあの日がなければ、この今を迎えてなかったんだからな」
酔いつぶれて机に突っ伏し眠った二人を見つめながらため息混じりにジーグは呟いた。
さて、自分だけでも寝巻きに着替えるか…。千鳥足でテーブルから離れると服を脱ぎ出した。
「…かっこいいな…改めて見るのは初めてだが…」
「…!起きてたのか?」
振り向くと起きていたのか女兵士が眠たげな顔でジーグを見つめていた。
「…最初見た時はもっと禍々しくて斑な形だったと思ったが…今みると…蜥蜴のような形だな…瘴気の痣」
「…瘴気じゃないさ、これは私だ。消える事のない私の記憶」
ジーグは優しく微笑むとまた腕を見た。そこには蜥蜴の刺青のような痣がこちらを見つめていた。
END
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ラスト
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