___守りたいもの守る強さ
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「女性の手記が置かれているという教会はここですか?」
控えめなノックと共に大きな戸を開けた少女に、管理を任されている老女は顔にシワを増やし、微笑む。
「こんにちは。ええ、ここがその教会で間違いありませんよ。」
安堵の息を小さく吐きだし、少女は続ける。
「私の祖母がこの協会で育ったのだと聞いて…。手記を…祖母を救ってくださった"ダイアナ様"の手記を見せて頂けませんか?」
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その手記は旅の出発から始まった。
『××4 080× 晴れ
今日、私は旅に出る。
雲ひとつない空に厳しい旅が待っていると分かっていても胸が踊る。』
『××4 081× 曇り
旅は予想の数倍、数十倍厳しい。
視察で寄った○○では日照りが酷く、作物が育っていない。』
『××4 092× 嵐
スラム街への視察が終わった。
何故私は知らなかったのだろう、世界はこんなにも残酷で不平等だと。
私にできる事などほんのひと握りにも満たないではないか。』
そこから続くのは悩み、苦しんでいる記録。
手記の冒頭は汚れは全くといっていいほどなく、文字も美しいものだったのに。段々と汚れがあり、字の強弱が異様に目立つようになり彼女の心情が伝わってくる。
黒い底なし沼に飲み込まれていくように思えた彼女の手記は想像よりもずっと早く、強さを取り戻していく。
『××4 100× 曇り
私が今更嘆いたところで何も変わらない。
ひと握りにも満たないとしても、偽善だと思われようと構わない。
私は私の持つ全てを使い、守る力をこの理不尽な世界に振るうと決めた。』
迷いのない美しい文字が描かれる。
なんて強い人なのだろうか。
続くページはそれから数ヶ月空いた日のものだった。
『××5 04×7 快晴
一先ず落ち着いてきたので記録を。
あれから教会を建て、少しずつ孤児を中心にスラムで暮らす人たちを受け入れている。
満足のいくものとは言えないけれど、衣食住に困らず過ごせる環境を作れている。
生まれてからずっとスラムで育った子達は会話も曖昧なことが多くて苦労するけれど、その分吸収が早い。』
『××5 06×× 晴れ
また前回から随分と空いてしまった。
子供たちも私もここでの生活に慣れてきた。
先生と呼ばれるのはくすぐったいから最近は"シスター"と呼ぶように、と言っている。』
穏やかに綴られる教会での日々には時々、そこで暮らしていたであろう子供の名が出てきていた。
そこの中に祖母の名を見つけて、少しの驚きと誇らしさを感じる。
祖母はこんなにも強く、美しい女性に育てられたのだ。祖母はお喋りが好きで時々昔話で聞いていた幼少期の出来事を手記で見つけ、嬉しくなる。
祖母は彼女から確かな愛を受け取っていたのだ。彼女から祖母へ渡った愛は母へ、そして自分にまで届いているのだと思うと、ここへ来るまで遠い人物のように思えた彼女がとても近しい人物のように感じれる。
数日、数ヶ月空きながらも続く手記はピタリと止まり、その次も、そのまた次も真っ白になる。
嗚呼、ここで終えたのか。
目頭が熱くなるのを堪え、手記を閉じる。
暫くの間、手記を胸に抱いてから立ち上がり老女の元へ戻る。
足音に気づいた老女がまた優しく微笑み、手記を受け取る。
「またいつでもいらっしゃい。シスターはいつでも貴方を待っているわ。」
少女はここへ来た時よりも明るく、スッキリとした笑顔を浮かべ教会の大きな戸を開けた。
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𝑪𝒂𝒔𝒕
💐ダイアナ・スチュワート(cv.はいねこ)
#シスターダイアナ
https://nana-music.com/users/7300293
𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
月明かり照らす 小道を通り抜け
優しさの裏に 隠れた甘い毒に
惑わされないよう
守りたいもの 守る強さ
いつか必ず手に入れると信じて
新しい明日へ 行くよ
喜びも絶望も超えて 急ぐその先へ
ただ「知りたい」から
出会い 学び 選ぶ道で 綴る
私だけの物語 誰も見たことのない
その1ページを
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𝑻𝒂𝒈
#AkashicRecords #シスター達の鎮魂歌
#灰色のサーガ
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