生まれた意味などなかった。
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
生まれた意味などなかった。
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__ℕ𝕠 𝕠𝕟𝕖 𝕔𝕒𝕟 𝕓𝕖 𝕤𝕒𝕧𝕖𝕕.✩₊*˚
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星空の下に鳴り響いた二発の銃声と、一人の少女がどさりと崩れ落ちる音。
その音に混じるように、小さな震え声がした。風が吹けば掻き消されてしまいそうなほど微かな声。
何かに怯えているような、今にも消えそうな声が聞こえた。
人が死ぬ瞬間を見ていたくなくて、それでも止めることは出来なくて。自分を守るためだけに俯いていた顔を、恐る恐る上げる。
藍空のすぐそばで、紅愛が真っ青な顔をして震えていた。焦点の合っていない瞳を彷徨わせた、酷く危なっかしい表情で。
元々紅愛の感情の起伏は薄い。一年と少し一緒に暮らしている藍空でさえ、彼女の思考を汲み取ることは容易ではない。
だけど今の紅愛の顔には、普段の淡白さとは違うものがあった。全ての感情を削ぎ落した上で怯えだけを残したような、今までに見たことのない異質な表情をしていた。
「紅愛……?」
何かにとりつかれたかのように、ただ前へと進んでいく紅愛を訝しみ声を上げるも、反応はない。藍空の声が届いていないかのようだった。
普段なら、藍空が声をかければ過敏なほどすぐに反応するのに。紅愛は命令を遵守することを何より大切に考えている――考えさせられているから。
決められたことに従わなければ酷い目に遭う。彼女の思考を構成するものの軸はそれなのだろう。そう考えるよう、施設の人間に育てられたのだ。同じ地獄で育った藍空には分かる。
分かるからこそ、おかしいのだ。他人に従うことを自我としている紅愛が、藍空の声が届かなくなるほどに取り乱すことなんて、ほとんど見たことがなかったから。
――否、一度だけ同じことがあった気がする。紅愛と暮らし始めてすぐの頃だ。遠くに聞こえた消防車のサイレンの音に、紅愛は同じ反応を示していた。
ぼんやりとした焦点の合わない瞳に、何かに酷く怯えているような態度。藍空の手首を強く掴み、逃げないと、と告げた声。
あの日と同じだ。きっと彼女の抱えた傷口が、目の前の何かを鍵として開いてしまったのだろう。光の消えた紅の双眸は、何も映していなかった。
伽藍堂の瞳で宙を見つめて、叶夜を撃ち殺した刹那の方へと向かって歩いていく。ほとんど足音を立てない、静かな歩みだった。
彼女が向かう先にいる刹那は、そのことに気付いていない。
おそらく初めて自分の手で人を殺しただろう刹那も、またその瞳に何も見ていなかった。
冷たくなっていく叶夜の亡骸を見下ろしているようでいて、ただ呆然と虚空を見ていた。
紅愛は無感情に、刹那の方へと歩いていく。ぴちゃり、と濡れた音がした。紅愛の歩いた道に、跡が出来ている。藍空から見える方とは反対側の手で、何かを握りしめている。
紅愛の手の中から零れ落ちていく、点々と続く真っ赤な印。紅愛のいる場所には出来るはずもないもの。
それは、誰かの血の雫だった。雫を垂らしている紅愛が握っていたものは、真っ赤に濡れた包丁だった。滴っているのは、紅愛自身の血なのだろうか。
どうして、紅愛がそんなものを持っている? 予想もしなかった光景に、思考が固まる。呼吸が止まる。
星天界には、心鍵を引き金として星巫女が必要とするものが供給されるらしい。おそらく叶夜が持ち込んだピストルも、そうして手に入れたものなのだろう。学校に通っているだろう十代の少女が、容易く銃を入手出来るはずがないから。
だとしたら、あの包丁は紅愛が必要としたもの、ということになる。今日、紅愛は藍空と同時に召喚されていた。その時には何も手にしていなかった。
叶夜が殺されたのを見た紅愛が、包丁を必要とした。心から願い、求めた。一体何のために?
目の前に広がる光景を理解出来なくて、咄嗟にそんな思考を巡らせてしまった。一種の現実逃避だったのだろう。
起こっている現実を飲み込むことに精一杯になってしまった。叶夜が殺されたことで零れそうになっていた恐怖の感情が、零れ落ちていく。
人の命は軽くて脆い。施設で過ごした幼少期を通して、そんなことはとっくに理解していた。人の死には慣れたつもりでいた。
それでも、誰かが命を落とす瞬間を目の当たりにしてしまえば、何も感じないわけにはいかなかった。ほとんど話をしたことすらなかったとしても、見知った人間であれば尚更だ。
藍空の行動を縛ったのは、そんな思考か感傷か。
どちらにせよ結果的に、藍空は声を出すことが出来なかった。紅愛を制止することが出来なかった。一歩も動けなかった。止めることが出来なかった。
紅愛が刹那の背後に立ち、包丁を振り上げる。一切の音を立てずに、呼吸さえ止めているのではないかという静けさで。
紅愛は人を殺したことがあるのだ、とその時気が付いた。彼女の立ち振る舞いからは、僅かな躊躇も迷いも見て取れなかった。
今にも砕けて散ってしまいそうな脆い表情で、何かを忠実に模倣するような、淡々とした行動だった。
すぐ後ろに迫った刃に、刹那が振り返って息を呑む。彼女の視線が紅愛を捉えた時には、もう遅かった。
命の潰れる、嫌な音がした。
刹那の背に、深々と包丁が突き刺さる。夜空を模した衣装が破け、傷口に近い場所から血に染め上げられていく。
瞳に驚愕の色を灯した刹那が、膝をついて崩れ落ちた。
紅愛が刹那に刺さった包丁を抜く。返り血が飛んで、紅愛の髪を、肌を、服を、全てを染め上げていく。儀式場の床は誰の血かも分からないほど真っ赤に染まり切っていた。
血塗れになった聖なる世界の隅で、紅愛は泣き出しそうな顔をして笑っていた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
❄️厚紙の箱に捨てられた
命ならば値打ちはないか?
☘️バス停 待合に渦巻く 見て見ぬふりの雑踏
⚖書き損じはどうしようもないが
それに勝る反吐が出ないか?
⛓その行方は今日日じゃ 誰も知らない
⚖❄️母の手を零れた 小さな命は
☘️⛓後部座席に勝る価値もない
☘️⛓⚖❄️何者にもなれる命で
救えるものひとつもないのだ
これほどに器用な手先で
救えるものひとつもないのだ
僕たちは
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♈︎Aries #星巫女_祈鈴
☘️祈鈴(cv.朔)
https://nana-music.com/users/2793950
♊︎Gemini #星巫女_璃星
⛓璃星(cv.唄見つきの)
https://nana-music.com/users/1235847
♎︎Libra #星巫女_藍空
⚖藍空(cv.くろ)
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♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
https://nana-music.com/users/579307
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴彗様
https://nana-music.com/sounds/0646616c
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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