ロウワー
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
ロウワー
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__𝔾𝕠𝕠𝕕𝕓𝕪𝕖 𝕝𝕖𝕒𝕧𝕚𝕟𝕘 𝕥𝕙𝕖 𝕧𝕖𝕟𝕦𝕖.✩₊*˚
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びしゃり、と。濁った液体の音が、すぐ近くで鳴った。
真っ赤な血が噴き出して、一人の少女が倒れ込む。銃弾の突き刺さった腹部に出来た傷口からは、止まることなく紅い液体が流れ出している。
同じ色だった。何度も何度も繰り返し夢に現れた、紅愛の意識の中に刷り込まれた悪夢の色と同じだった。
瞼の裏に焼き付いた記憶の中の紅色が、視界に映る光景と混ざり合っては渦を巻く。紅愛を飲み込もうとするように。
熱い。苦しい。怖い。ここにいれば死んでしまう。早く、早く逃げ出さなければ。
そう思うのに、この場に縛り付けられているかのように足が動かない。叶夜から零れた紅色は広がり、夜色の床を飲み込んでいく。きっとすぐに、紅愛の方まで届く。
耳の奥が、誰かの悲鳴を拾った。この場所にいるはずのない、低い男の悲鳴。痛みと恐怖に歪んだ汚い声が、紅愛の中で反響した。
あいつが、この色を作り出したのか。また紅愛のことを壊そうとするのか。星空を侵食していく色が恐ろしくて、意味のない震えた音が口から漏れた。
違う。あいつは、紅愛が殺した。人を殺したから、紅愛は悪い子になった。紅愛はおかしい人間になった。だからきっとみんな、紅愛の元からいなくなった。大切だったはずの場所は、全部燃えてしまった。
あいつがいないのなら、この紅を作り出したのは何なのだろう。紅愛を殺そうとするのは、全部を奪おうとするのは、一体誰なのだろう。
夢に出てきた二つの紅がどろどろに溶けて、紅愛を蝕んでいく。このままだと殺されてしまう。熱くて痛くて苦しくて辛くて、あの日と同じ感覚がした。
早く逃げなくては。逃げられないのなら、紅色を殺さなくては。
「絶対に人を殺してはいけない」
冷えた声がどこか遠くで響く。何度も施設の人間に告げられてきた言葉。その言葉を一度も聞かない日は無かった、もはや紅愛の一部となっている言葉。
紅愛は間違った存在だから、自分で考えてはいけない。ただ決められたことを守っていればいい。ルールに従っていればいい。
人を殺してはいけないのは、絶対に変えられない決められたルールだ。たとえ紅愛が殺されかけていたとしても、絶対に破ってはいけないルールだ。
だから、紅愛に紅色は殺せない。ただ飲み込まれるのをここで待っているしかない。
震える喉でゆっくりと息を吸い、強く両手を握りしめた。伸びた爪が食い込んで皮膚を破る。口の中がカラカラに渇いていた。
広がる紅から目を背け、瞳を閉じて呼吸だけに集中する。そうでもしないと、恐怖のあまり叫び出してしまいそうだったから。余計な声を上げれば、また施設の人間に殴られてしまうのに。
閉ざされた暗闇だけに意識を向けて、俯いて身を固くする。
──その時だった。更なる銃声が響いたのは。
突如響いた大きな音に、反射的に閉じていた瞼を開く。まず目に飛び込んできたのは、叶夜の肩辺りの傷から噴き出した鮮血。
勢いよく辺りに紅色を撒き散らし、冷たい床に血溜まりを生み出した。
耳鳴りがした。この光景を、紅愛は知っている。すぐそばで見たことがある。紅愛自身が、作り上げたことがある。飲み込まれそうなほどに鮮烈な色をした紅色。紅愛の全てを奪う色。
また繰り返してしまったのか。紅愛は何もしていないのに。どうして同じ悪夢が二日も繰り返されているのだろう。外はまだ暗い。逃げ出したいと願っても夜明けは訪れそうにない。
今度こそ紅愛は殺される。紅色に襲われて燃やし尽くされる。紅愛が悪い子だから? ルールを守れなかったから? だから罰が与えられている?
今すぐ目を閉じてしまいたいのに、視線を縫い付けられたかのように紅色から目を離せない。夢の景色を呼び起こしては、恐怖を倍増させていく。
怖い。怖くて堪らない。今すぐ逃げ出さなければいけない。歯の根が噛み合わなくなって足が震える。頭が軋むように痛む。殴られている時と同じ感覚がする。
紅色が、熱が、痛みが恐ろしくて仕方なくて。気付かないうちに、手の中に何かを握りしめていた。まるで紅愛を助けるかのように。
手のひらに触れている冷たい何かが、紅愛の温度を奪っていく。覚えのある感覚に、背筋が粟立った。
手の中にあるこれを、紅愛は知っている。朧気になった記憶の中でも、強く刻み付けられて残っている。紅愛を狂わせたもの。
自分ではない何かに、意識を乗っ取られていくような感覚がした。周囲の景色が滲み、音が消えていく。感覚器官が代わりに拾うのは、記憶の中の悪夢。
何度も見続けた夢の中の紅色。何かが燃えていく音。施設の人間の命令。紅愛はおかしいのだと告げる声。飛び散った血の温度。
目の前が歪んで揺らいで、何も分からなくなる。頭蓋骨の内側から叩かれ続けているような痛みが襲い来る。
「絶対に人を殺してはいけない」
繰り返し反響し続けていた声が、不意に止まった。施設に入った時から下され続けていた命令を告げる声が消えた。
代わりに響いたのは、別の声。自分の告げることが何よりも正しいのだと信じる、凛と澄んだ声。紅愛の意識を塗り替えていく。
「私は法を変える立場にある。中央政府の関係者だ」
定められた法よりも上なのか、と尋ねた言葉に対する答え。肯定。
すぐ近くで、乾いた重い音がした。金属の塊が落ちる音。その音に、目の前の現実に引き戻される。音のした場所には、刹那が感情のない笑みを浮かべて立っていた。
そうだ。紅に飲み込まれていた思考する部分がようやく紅愛の中に落ちてくる。刹那が、叶夜を撃った。叶夜一人に銃を向けて、二回撃った。撃たれた叶夜は、紅色を撒き散らして倒れた。殺された。刹那に。
カタカタと手が震える。足元に濁った液体が落ちた。微かなその音に、また恐怖が蘇る。
紅愛は、紅色を殺さなければならない。でないと、紅愛が殺されてしまうから。昔と同じように、大切なものが全部なくなってしまうから。だけど、人を殺すことは出来ない。人を殺してはならない。そう定められている。命令されている。
でも、刹那は殺した。法を破った?――否、違う。だって刹那は、「法より上」なのだから。下されていた命令が塗り替えられる。法より上の立場にある刹那が、人を殺した。出会った時に言っていた通りに、法を変えた。
なら、紅愛を縛るものはなくなった。紅愛は、自分を守れるようになった。
記憶の中の熱に焼かれる。身体の奥が冷えていく。
手の中にあるのは、星天界が紅愛に与えたのは、あの日と同じ血塗れの包丁だった。
倒れた叶夜から紅色が零れ落ちる。これ以上誰かが殺される前に、止めないと。紅愛が守らないと。
刹那は何も言わずに佇んでいる。叶夜の方から視線を外さずに、命を落としていく叶夜を見ている。
紅に塗れていく視界の中で、震える足を刹那の方へと踏み出した。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
⚜️そう簡単な祈りだった
🔥端から ⚜️段々と消える感嘆
🔥今から ⚜️緞帳が上がるから
🔥静かな ⚜️会場を後にさよなら
⚜️言いかけていた事が 一つ消えてまた増えて
背中に後ろめたさが残る
🔥従いたい心根を 吐き出さぬように込めて
胸の中が檻のように濁る
⚜️受け止めたいことが 自分さえ抱えられず
持て余したそれを守っている
🔥霞んだ声はからからに 喉を焼いて埋め尽くす
何を言うべきか分からなくて
🔥⚜️感じてたものが遠く放たれていた
🔥同じようで違うなんだか違う
🔥⚜️何時まで行こうか 何処まで行けるのか
⚜️定かじゃないなら何を想うの
🔥⚜️僕らが離れるなら 僕らが迷うなら
その度に何回も繋がれる様に
ここに居てくれるなら 離さず居られたら
まだ誰も知らない 感覚で救われてく
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♋︎Cancer #星巫女_紅愛
🔥紅愛(cv.未蕾柚乃)
https://nana-music.com/users/2036934
♐︎Sagittarius #星巫女_刹那
⚜️刹那(cv.ハナムラ)
https://nana-music.com/users/8640965
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴🐳様
https://nana-music.com/sounds/0626bb22
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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