カトラリー
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
カトラリー
- 93
- 11
- 0
__𝕀 𝕨𝕒𝕤 𝕕𝕣𝕖𝕒𝕞𝕚𝕟𝕘 𝕠𝕗 𝕒 𝕤𝕔𝕠𝕣𝕔𝕙𝕚𝕟𝕘 𝕝𝕚𝕘𝕙𝕥.✩₊*˚
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
叶夜が、柊葉を殺した。
その事実を受け止めるには、かなりの時間を要した。
何が起こったかも理解しきれないまま、残酷に夜は明け、藍空は元の世界へと戻された。
目を開けると、朝の鮮烈な光が真っ直ぐに部屋へと射し込んでいる。ここが現実なのかどうか、しばらく確証が持てなかった。どこか別の世界で描かれた物語を見ているかのようだった。
叶夜が刹那を殺そうとした。琉歌が死んだ原因を作ったのが、刹那だと思ったのだろう。確かに、一人を犠牲にするきっかけを作ったのは刹那だった。
その刹那を、柊葉が庇った。銃口を向けられた刹那を突き飛ばし、刹那に当たるはずだった弾は柊葉を貫いた。
飛び散った濃い紅色が、まだ鮮明に瞼の裏にこびりついている。切迫した声で何度も柊葉を呼び続けた刹那の声が。呆然と銃を取り落とした叶夜の表情が。星空の下に響いた悲鳴が。
どこか遠くに感じられた現実が、少しずつ実感を伴って藍空を蝕んでいく。
間近で他人の死に触れるのは、初めてではなかった。人が死ぬ瞬間に出会うのも、人が殺される瞬間に出会うのも、初めてではなかった。
施設にいた頃は、藍空のすぐ近くで沢山の子供たちが死んでいった。藍空が生き残れたのは、ただ運が良かったからだ。
施設の人間に口答えをして、二度と戻ってこなかった子供もいた。飢えから他人を襲っては、殺された子供もいた。
少し前までは、人の死なんてただの日常でしかなかった。慣れ切ったことのはずだった。いつものことのはずだった。
それでも、星巫女が他の星巫女を殺したという事実は、藍空の胸にずしりと圧し掛かっていた。
信じようとしていたのかもしれない。どれだけ苦しくても、儀式を続ければいつか死ぬかもしれないと分かっていても。それでも星巫女である限りは、施設から離れられる限りは、敵意や殺意とは無縁だと。
だけど、無自覚だったそんな小さな期待さえも裏切られて潰されてしまった。
叶夜が悪いわけではない。彼女はただ、何も知らなかった琉歌を死へと誘導した刹那が許せなかっただけなのだろう。刹那だって、自分が死なないための最善策を実行しただけに過ぎない。誰だって死にたくはない、当然だ。もし藍空が彼女の立場にいれば、迷うことなくそうしていただろう。だから、きっと誰も悪くない。勝手に期待して勝手に落胆した、藍空が悪いのだ。
柊葉の最期の歌声が、今も耳に残って離れてくれない。途切れ途切れの、今にも消えてしまいそうな、それでも星空に凛と響いた歌声。
死の間際にいてもなお、彼女は儀式を行った。そのおかげで藍空達は元の世界へと戻ってくることが出来た。
どうして、彼女は自分の命が果てようとしていてもなお、儀式を成し遂げたのか。助からないことは、おそらく自分でも分かっていたはずだ。応急処置でなんとかなる出血量ではなかった。
それでも柊葉は、最後まで星巫女であろうとした。何のために? 琉歌のように星巫女に憧れていたわけではないのだろう。柊葉はいつだって、取り繕うような貼り付けた笑みを浮かべていたから。彼女の全ては藍空から見て作り物のようだったから。
刹那は昔、星巫女の魂は少しずつ神様と一体化しているのだと話していた。柊葉が最期に歌ったのは、それが理由なのだろうか。
それとも、星巫女から神様に向けた、最期の歌だったのかもしれない。救いを求めていたのか、罪を赦されたかったのか、それとも何かを伝えたかったのか。そんな理由で、彼女の中の神様に向けて歌っていたのかもしれない。
あの歌の意味を知っているのは、きっと柊葉だけなのだろう。何を考えたところで、藍空の想像でしかないのだから。
その日の夜、藍空はまた星天界に呼び出された。藍空のすぐ隣には、同じように召喚された紅愛が俯いている。何かに怯えているようにも見えた。
時折藍空の方に手を伸ばそうとしては、躊躇うように引っ込めている。視線は下に向いたまま、藍空の方を見ようとはしない。
それを良いことに、気付かないふりをした。紅愛の方を見ないように、星空を見た。不安、恐怖。そんな感情が紅愛にもあるのだろうか。そう思うと心の奥底が痛んだ。それでも、藍空は紅愛の方を見なかった。
柊葉が死んで、元の世界に戻されてから。藍空は紅愛の姿を見ていなかった。普段は藍空が呼べばすぐに部屋から出てくるのに、今日の彼女はそうしなかった。まるで部屋の中にいないかのように、扉越しの声に全く反応を示さなかった。
時折部屋の向こうから小さな声が漏れていたから、部屋にはいるのだろうと思い放っていた。紅愛の奇妙な行動は今に始まったことではなかったから。
こうして星天界に召喚されるまで、紅愛は一日中、一人きりで部屋に閉じこもったまま、藍空に顔を見せなかった。
行動だけを見れば、柊葉の死に塞ぎ込んでいるように思えたのだけれど、紅愛は違うだろう。咲羽が死んだ時でさえ、何が起きたのか理解出来ていない様子だったのだから。
いくら考えたところで、その答えは浮かばなかった。同じ場所で暮らし始めてから一年以上経つというのに、未だ藍空は紅愛のことを理解出来ないでいる。
どうかしたのか、と一言尋ねるだけで良いのに、藍空はそうしなかった。柊葉の時とは違って、すぐ隣に答えはあるのに、藍空は手を伸ばそうとしなかった。
理解出来ないのではなく、理解しようとしないのだ、藍空自身が。彼女を理解して救ってあげられるほど、藍空は出来た人間ではない。そんなことをすれば、藍空ごと潰れてしまう。
それが分かっているからこそ、藍空は紅愛に手を伸ばすことが出来なかった。
昨日と同じようで、全く違う夜。微かな鉄の匂いが鼻を刺した。
冷たい儀式場の床には、一人の少女の亡骸が倒れている。一日中、ここで眠り続けていたのだろうか。
目を伏せた柊葉の表情は、今までに見たことがないほど穏やかなものに見えた。
そのそばには、まるで柊葉を守るように、刹那が佇んでいた。
彼女の横顔からは何の感情も読み取れず、まるで一切の表情が抜け落ちたかのようだった。
柊葉を見ているようでも、星を見ているようでもあって、その双眸には何も映されていない。
彼女の足元には、純黒のピストルが転がっていた。柊葉を殺したものだろう。叶夜が取り落とした後、扉の付近に落ちていたはずだ。刹那が拾い上げたのだろうか。拾い上げた上で、手元に置いたのだろうか。昨夜の光景が脳裏を過り、背筋を冷たいものが走った。
虚空を見つめる刹那は、藍空に気付いてすらいないようだった。刹那が取り乱すところを、初めて見た。彼女は藍空と同じで、誰のことも信じていないと思っていたから。
「遺体、運ばないんですか」
硬い声でそう告げると、ようやく刹那は顔を上げた。ゆっくりと薄紫の焦点が藍空に合わせられる。彼女の頬には、乾いた涙と微かな血の跡がこびりついていた。
刹那は、何も言わなかった。何も言わないままに、静かに首を横に振った。
彼女は一人静かに、柊葉の死を悼んでいた。
拒絶されている。その意図を汲み取り、藍空はそっと目を伏せ距離を取った。元より声をかけたのだって、深い意図はない。ただ、見ていて居た堪れなかっただけなのだ。
藍空の背中を追うように、紅愛が後を付いてくる。震えているようにも見えた。何かを恐れているのだろう。藍空には分からない。
儀式場の壁際で、誰とも目を合わせないように下を向いた。紅愛は藍空のすぐ隣に立ち、それでも藍空を見ようとはしなかった。
伸ばしかけた手を縮こめた彼女は、視線を縫い付けられたかのように、ただ真っ直ぐに刹那だけを見つめ続けていた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
🔥何でもないのに涙が
こぼれ落ちたらいいから笑って
☘️一滴も残さずに救ったら
戸棚の隅のほうへ隠すから
⚖誰かの言葉の分だけ
また少しだけ夜が長くなる
🔥目を閉じたらどう?
もう見たくもない
☘️なんて
言えるわけもないし
🔥不機嫌な声は霞んだ
⚖浅い指輪の味を頂戴な
☘️またいつもの作り話
⚖灼けたライトで映す夢を
☘️🔥⚖見ていた
☘️🔥⚖藍色になるこの身 委ね なすがままに
故に 忘れてしまっても
愛用であるように 錆びたカトラリー
君が終わらせてよ
🔥最悪の場合は
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♈︎Aries #星巫女_祈鈴
☘️祈鈴(cv.朔)
https://nana-music.com/users/2793950
♋︎Cancer #星巫女_紅愛
🔥紅愛(cv.未蕾柚乃)
https://nana-music.com/users/2036934
♎︎Libra #星巫女_藍空
⚖藍空(cv.くろ)
https://nana-music.com/users/1544724
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴だんご様
https://nana-music.com/sounds/064076f9
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
Comment
No Comments Yet.