永遠の不在証明 / Piano ver.
ビアンド♀
永遠の不在証明 / Piano ver.
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・自信家で高慢な女王気質のお姉様。でも店員としての仕事は嫌ではない。店で出す肉料理の仕込みには全力。濡れ髪風のセットが好きだが、湿気には弱い。
『あら、っふふ、そう……。気にしないで、こっちの話よ。こちら、牛ほほ肉の赤ワイン煮になります。よく味わって食べなさい』
艶やかな黒髪の女の給仕は男を見て、そう笑った。女の赤い口紅を見たってもう何も思わない。そんなものより美しさすら感じるこのひと皿にしっかりと向き合いたい。その思いでナイフとフォークを手に取った。デンと置かれた肉の塊は、ナイフを通せば柔らかくほぐれ、断面からはうっすら肉汁が染み出す。口に運べば、濃厚なドミグラスソースとワインの風味、それに負けない牛肉のまるで臭みのない肉の旨味が噛めば噛むほど溢れてくる。飲み込むのが惜しいほどだ。食べきってしまいたくないと強く思うのに、肉を切る手が速くなる。落ち着けようとワインを飲んでも、一息ついた心地がしなかった。十分すぎるくらい腹も満たされているにも関わらず、まだ食べたい、もっと食べたいと体が訴える。欠片ほどしかないパンをソースに浸して飲むように食べ、付け合せが沈んでいないかとスプーンで皿の中をあら探す。少しの欠片を見つけては口に運び、気づけば皿の中にたっぷりあったソースはほぼ無くなっていた。
皿をさげにきた女の給仕が何か呟くように唇を動かしていたが、なんだったのだろうか。
#洋食屋さかもと
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