tanzanite
ポワソン♂
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・目が死んでいるみんなのお兄さん。決して過重労働ではない。仲間の感情の機微に気づき、よく気にかけるがその分地雷も踏み抜きがち。
『お待たせいたしました。鮮魚のポワレでございます』
パンと同時に置かれたのは、身の厚い白身魚のポワレだった。洒落たソースの装飾はこれぞフレンチと言わんばかりの出来で、つくづく品のいい店だと男は目を見張る。魚の種類や、ソースの味の説明は右から左に流れていき、男の手はいつの間にかパンに伸ばされ、気づけば給仕を無視してむしゃむしゃと頬張っていた。バツが悪そうな男に何も言わずに給仕は奥へと戻っていく。その何も映さない瞳が頭に残って、男はグラスを煽った。待ちに待ったメインだと言うのに、心持ちが悪い。白身にフォークを突き立て噛みちぎり、皮を吐き出す。気分が悪い。色々なことがフラッシュバックして、味なんて感じないほどだった。ただただ奥歯ですり潰して飲み込む動作を続けていると、先程の給仕が頃合を見計らって新しくワインを持って戻ってくる。気づけばシャンパンの残りは少なく、グラスを満たすほどもない。皮だけ残してナイフとフォークを置いた男は、一滴も残さずシャンパンを飲み干すとぐいとグラスを傾けた。眉を少し下げた給仕はそのグラスにワインを注ぎ、食べ散らかされた皿をさげていった。
#洋食屋さかもと
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