約束は新たな道と成りて
BLUE ENCOUNT
約束は新たな道と成りて
- 21
- 2
- 0
「…はぁ…」
パタン。本を閉じる音と吐息が、武器の並ぶ店に小さく散った。街は祭に力を入れるせいか秋は少し武器屋は暇になる。いつものキリエからの武器の購入やメンテナンスの依頼が減るため、店番をするのが秋のメイン。…世界は平和なのか?個人客も少なく、今日は誰も店に来ない。おかげで読みたかった小説は読み切ってしまった。良いストーリーだった。読み切った達成感もあるが…苦い感情。
「…終わりってのは…どうも苦手だな。今まで打ち込んで、追いかけて、逃げて…そんなことばっかだったんだよ。だから、終わりってもんに慣れてないのかもな」
本をカウンターに投げる、その横には創り切った依代銃…。魔王から逃げて見つけた自分の店と街、友の背中を追ってたどり着いた銃、共に歩んで手を結んだ恋人…。一気にジーグにとっての区切りが訪れてしまった。客の居ない店を見渡して自分の様だと笑うジーグ。やることがないのに店は開かねばならない。命あれば人生を辿らねばならないが…何となくやる気が出ない。
「…あー…ハロウィンか…仮装、考えるのだりーな…昨年のがどっかにあったよな。それでいいや…」
カウンターに突っ伏し、昼寝と決め込もう…そう思った矢先、いつもの騒がしい理事会員が気だるい店のドアを開いた。眠りに落ちるのを妨げられた苛立ちを感じたが、何故だか不思議と人が来た事の期待感が心を支配した。
「…と!言う訳でして!!…あのぉ、その…ジーグさんの腕を是非祭に披露していた抱きたいです!鉄を叩いたりとか、武器の試しを披露するとか、簡単なものでも良いので…お願いできますか?」
簡単なって!大事な工程を軽視され少しムッとしたが、武器屋でもないニフがその大変さを知っている訳はないかと溜息をついた。
「要は仕事着で、腕を披露すりゃいいんだろ?…なんか考えとくよ」
ありがとうございます!90度のお礼をすると、また騒がしくドアを開いてニフは出ていく。…仮装、用意しなくて良かった。ジーグは苦笑いしながらまたカウンターにつっ伏す。面倒だな…やる気が出ないのに、何をすれば…ワークショップでもするか…武器に名前を掘るとか…なんか…簡単な…
ゆっくりと微睡むジーグの目の前に、極楽鳥の影が目の前に立っている。それはカウンターをバシン!と叩いて怒鳴った。
「…ナンセンス!ナンセンスよジーグ!貴方神の手のお友達を超えたんでしょ?祭よ祭!その腕をこの時披露しないでいつ披露するのよ!!」
ヤミィか…ジーグは反論しようと体を起こそうとしたが動かない。それどころか声すら出ない。バタバタと焦りながら藻掻くジーグを尻目に、ヤミィは一頻り説教すると溜息をついて項垂れた。…なんだよ!急に上がり込んで説教かよ!溜息なんてつきやがって…勝手に期待するな!と思ったが、顔を上げた人影はヤミィではなかった。黒いローブと腕に刺青。いつも世話になっている呪詛屋の主…さとらだった。
「ジーグ、おめでとう…。そういえば私、銃の完成を祝ってなかったなって。私は武器の事はよく分からないんだけど…このどこかに、私の呪詛が生きている。…ねぇ、呪詛のレシピを聞きに来た日、覚えてる?私は怖かったの。私の一族は強化魔法を限界を超えて自分にかけ続けて神を貶めた…神落ちの一族。この呪詛は憑神とより心を通わせる事でより強い力を引き出す呪詛。見方によっては強化の呪詛…創るのに一族から反対された。それでも皆の支えがあって生み出せた呪詛。それを武器にまで高める事を。そのせいで誰かが神落ちしたり、不幸にならないかって。…その時交わした約束、覚えてる?私の懸念に答えるって…どうか、この銃を不幸の鍵にしないでね」
ジーグははっと目を見開く。忘れてた訳では無い…しかし、完成と達成への燃え尽きで薄れていたのは確かだ。私が神の手の為せなかった先に行き着くまでには、人の心があった事を…。さとらは少し悲しげに顔を傾けると、それは…それは、アイツの顔に変わっていた。忘れもしない、あの顔に。
『終わりなんて、何を寝ぼけてるんだい?いつも厳しいジーグらしくないなぁ。僕らは何を作っても、さらにその先に何を作るかをいつも考えて遊んでたじゃないか。ジーグが辿り着いたのは区切りでしかない。終わった?まさか!はじまったんだ…大丈夫』
親友の姿にジーグは沢山の想いを話したかった。なのに、口をついて出たのは、ある日の親友の言葉だった。
「…この技術が人々を救って、幸せに導けたら…それはとても幸せな事だって思うんだ」
出なかった声が出た。その言葉に嬉しそうに頷くと、人影はぼやりと消えていく。…待ってくれ!叫ぶと同時に彼の手を掴む。
「…はっ!!」
目を開くと、窓の外は真っ暗…先程まで日が入っていたのに…店は誰もいない。寝てしまっていたのか…はぁ、とジーグが肩を落とす。彼の手を掴んだ手に目を移すと何かを握っていた。
「…依代銃…」
ハロウィン、実りと秋の主に感謝を捧げる祭。そして、先祖や亡き霊が戻る日でもある…。そうか、相変わらずお節介だよな…。
「わかったよ。祭に神の手の私の腕を見せてやる!!それも特大でな!!」
そう言うと、「しばらく休業」の札を立てて工房へ戻って行った。
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
武器屋ジーグ
三期もどうぞよろしくお願い致します。
Comment
No Comments Yet.