誰もが目指すその頂きへ
ウマ娘 プリティーダービー
誰もが目指すその頂きへ
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「…んで、お前の目標は分かったけどさ…それはここに居座って叶うもんじゃないんじゃないか?」
「え?」
「だって、最強…だろ?なら、バドンに居るだけじゃダメだ。だからお前は海を超えたんだろ?キリエはあくまで通過地点だよな…?あれ?私の解釈は間違ってるか?」
三人でお茶を飲んだ後の帰り道でのジーグの一言。カレンはハッとした。言う通り、キリエは通過地点。キリエに来る事が目的ではない。目指すは世界、最強の高み…。
「で、他の街には行ったのか?私の故郷はもう無いが…技術ならブレイザブリクが断トツだ。このエリアの首都ならアヴァロン…人も多いから強い奴も多いだろう。踊りと言うなら、私はくわしくないがこの街のメアリって奴が嘉嘉の街で舞踊を習ってこの街で披露している。…きっと他にも沢山の街や集落、村があるだろうから旅にでないといけないな…」
…月明かりが照らす天井をぼんやりと見上げる…。ジーグと別れ、身支度をして宿のベッドに寝転ぶ。別れてからずっと回り続ける言葉…彼の言う通りだ…だけど…
「キリエの軍どころかトカゲの武器屋に負けた…世界樹のリズムだって掴めてない…これで出ていくのは…」
逃げの様に感じた。私は…この街で何も成し遂げてないのでは無いだろうか?
「まだキリエを出て行ける力はない…けど、トカゲの言う通りっす…どうしたら…どうしたら…」
何度もどうしたら…と唱えながら、眠りに落ちた。
「行ってらっしゃいませ!」
門番が明るく敬礼する。翌日、悩みあぐねたカレンはキリエの門の外へと出ていた。無論、まだキリエへ移転届けは出していない。けれど、ウダウダとキリエに居座ると夢が遠のく気もした。
「どーしていいかわかんないけど、悩んでんの苦手なんで!とりあえず外の世界を見るのも悪くないよね!」
一先ず悩みに区切りが着いたのか、晴れ晴れした顔でカレンは当てのない外回りへと出向く。体力は自信がある。キリエの近くの集落を二、三見て回る事が出来た。どの場所も流れるリズムが全然違う。まるで空気や匂いのように…不思議な感覚が集落と人々を包み込む。そして、その空気は集落と人々が生み出していく…。そうか、そういう事なんだな。世界樹に流れるリズムの畝り、そのヒントがこの学びにあるような気がした。集落を出ていく際には、その集落のリズムを踊って出ていく。
時間的にここが最後であろう村へ着くと、村人が困っていた。カレンは話を聞いて、早速厄介な魔族をダンスで追い払う。人助けもしたし、ある程度見て回ったので最後にリズムを捉えて踊る。すると後ろから金属音がするので振り返ると、大剣を背負う人間の青年がいた。
「君が魔族を追い払ってくれたんだね。ありがとう」
「どー致しまして!」
キリのいいところで体を止め、男と向き合う。重装備の甲冑はボロボロで長い年月使われている事が分かる。
「旅の途中でお世話になっている村だからね、本来は俺が倒さないとだけど…。綺麗で華奢な方なのに魔族を追い払えるなんて、意外だなぁ」
「はぁ?見る目ないっすね。うちはバドン最強の踊り子!んで、バドンのダンスこそ最強と知らしめるために世界最強を目指してんすよ?」
男の言葉にムッとして、挑発するように身を翻した。男はその言葉に目を見開いた。カレンより少し年下であろうか?しかし、よく鍛え上げられた腕が大剣を持ち上げ、ぶん!と振り上げる。
「旅をして長いけど、最強を目指すなんて馬鹿げた理由で旅に出てる奴なんて見た事ないよ…俺以外で」
男は剣先をカレンに向けた。爛々と輝く目は少しの敵意と溢れんばかりの期待と好奇心に満ちている。…それはカレンも一緒だ。
「君、強いの?」「アンタ、強いっすか?」
言葉が被った…二人は大きく笑うと、風を切り裂く剣と業火の音が轟く。鉄板の様な大剣を振り回し、火を散らして威力を殺す。そのままカレンの体目掛けて弧を描く大剣。カレンは目を閉じて大剣の風に乗せてステップを刻む。サッと飛び上がると大剣の上に飛び乗り、そのままムーンサルトを男へ放つ。剣を取られて動きを封じられたが、間一髪で体を逸らして回避する。カレンは間髪居ずに腕を広げて一回転。すると衝撃波が飛び出す。
「うぉ!なんだよ!?魔法…?!!」
「バドンのダンスは神のダンス!詠唱なんて要らない!これこそ最強!!」
今度は広げた両手を合わせて手を叩きステップを決めると手を叩く度に炎が生まれる。ランダムに浮き上がる炎が男を襲う。
「いいなぁ!かっこいい!!けど、俺だって負けられない!!」
そう言うと男は大剣を振り回して叫び出した。
「孔雀の羽はいかな敵をも逃がさず!音速を超え、走れ!全てを穿つため!カルティケーヤ!」
グアン!!風が震えるのを肌で感じた。カレンが放つ衝撃波よりも強力な空気の波が辺りを揺らす。あまりの状況に混乱しながらも男が放つ大剣を避けようとするが…
「きゃあぁ!」
大剣が衝撃波を受け鉄が畝り、それ自身も新たな衝撃波を放っていた。刃の近くで回避したはずなのに、カレンの肩は何枚もの刃物で切りつけられたような傷ができた。それでも怯まず甲冑へ蹴りをかまそうとするが、当たった途端、震える甲冑に弾かれ打撃が通らない。
「俺は、俺の力で俺の戦い方を生み出した!俺はこの魔法と武器を掛け合わせた戦法で最強を目指す!!」
そう言うと詠唱を重ね、そこに立っているだけで目眩がする程の激しい振動がカレンを襲う。男が振り下ろした剣の先、地面が魔族の爪で抉られたかのようにズタズタになっている。…世界は広い…こんな戦い方もあるなんて…でも、カレンの目指す先はその上にある…!
大きく息を吸って空気と魔力のリズムを入念に追う。体はそれをなぞる様に踊り出す。空気とリズム、そして憑神の呼吸が揃った。
「うちは負けられない!うちはバドンを背負ってるんだ!最強になるその時まで!いっけぇぇえ!!」
足をダン!と踏みしめると、男が放った振動と反発する振動が流れた。物理魔法は男の方が上のようだが、それでも武器の無力化には成功した。とめどない蹴りとパンチを男に送る。動きではカレンが早い。防具も振動がないためダメージを消しきれない。男がよろけたところでステップは完成した。
「フィナーレだ!!燃え上がれ!!」
最後のステップを踏むと、男を包むように火柱が上がり男は倒れ込んだ。
「もう帰るのか…俺も旅に出るからもう会えないかもしれないけど…」
すっかり空が赤くなった頃、男の治療も終わり、カレンはキリエへと帰ろうと村の門にいた。男はカレンを見送る。
「君が最強に近づいていたら、俺が壁となって立ちはだかる程の強さになってるはずだから、また会えるな」
「はぁ?生意気っすね。今度もうちが勝つから!」
「いてて…必ずこの痛みの借りは返す!」
固く握手をし、最後は互いの戦いを称え合い、同じ高みを目指すもの同士再会を誓いあって別れた。
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闇のマナを手に入れた
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