琥珀糖を持って
40mP
琥珀糖を持って
- 5
- 0
- 0
こう見えて、パティシエを目指す前は様々なバイトをしていた苦学生だ。世界樹の採掘も既に経験済み。
「ブーツと、ロープ、水筒、武器、マッチ…敷物…服装もバッチリです!よし!」
小型動物の獣人や亜人と見間違うぐらい、小柄のオリィ。一人で世界樹に入るのは危険だとしっかり認識している。それ故の準備…スイーツ作りと同じである。どんなお菓子にも万全の準備と心構えが不可欠なのである。
「ふふ、…オレンジの琥珀糖もおやつに持っていこう!疲れた時の糖分はとってもとっても大事なんですから!」
オレンジの髪にカーキ色の繋ぎ、ロープやランプ、小型ピッケル等が腰からぶら下がっている。背中にはオリィの背に負けない大きなリュック。この重装備なら、世界樹の果まで行けそうだ…。しっかりお店の戸締りをしてから元気よく出かけて行った。
「うーん、せっかくなら新しいレシピに使えそうな素材も手に入れたいところなのですが…欲張りすぎかなぁ?」
ポツポツ独り言を言いながら、ぐんぐん奥へと進んでいく。手には立派なナタをつかみ、邪魔な枝や葉はどんどんと切り開いていく。スパン!切った枝に固い木の実がたわわに実っていたものがあった。すると、頭上からキー!キー!と甲高い声が聞こえる。魔物か!オリィは身構えたが、そこには世界樹に住むリスがオリィを恨めしそうに睨んでいる。どうやら彼は食事中に枝を切られたようだ。
「は!ごめんなさい!もし良ければ…お口に合えばいいのですが…!」
そういうと、リスに向け橙色に光る琥珀糖を差し出した。甘い匂いに負け、リスはオリィの手に降りるとそれを齧った。ガリ!サクサクサク!!
「良かった!気に入ってくれたのですね!」
最初のお客さんが動物になってしまったが、嬉しそうに食べてもらえる喜びは変わらない。ニコニコと前に進むオリィの後ろをリスが着いてくる。
そこ先に小さな風呂敷に包んだ荷物を背中に抱えたネズミが、疲れたのかペタリと座り込んで休んでいる。
「お疲れには甘いもの!ですよ?」
体が伸びる程琥珀糖を食べたネズミもオリィの後ろに着いてくる。
次は綺麗な声で鳴けない小鳥に、オレンジは喉に良いと琥珀糖を与える。次は空腹の子うさぎ…まるで桃太郎のきびだんごである。オリィの後ろは琥珀糖で繋がれたご縁がゾロゾロと後を追う。
戦闘もなく平和に歩を進めていた一団の前方に、鋭い牙と強い妖術を持ったイヌガミが現れた。怯える動物達、オリィも直ぐに短剣を構えて戦闘態勢に入るが…
「…怪我…してる!!大変なのです!」
イヌガミと言えば人に取り憑き、精神から破壊する恐ろしい魔獣だ。しかし、オリィは何も躊躇わずイヌガミの元へ近づくと手をかざした。
「水菓子の祖、霊幻なる橘を求めたる甘の神幻、田道間守よ…不死の果実より流るる生命を注げ」
イヌガミはみるみる回復していく…動物達は心配そうにオリィを見つめる。相手が魔物でも、ほって置くのはオリィの考えにはないのだろう。回復したイヌガミは唸りを上げてオリィに襲いかかるりオリィの体に取り憑いた。
恩人であるオリィを助けようと動物達が一斉に駆け寄るがオリィはすくっと立ち上がり静止した。
「大丈夫です皆さん。見える…助けて欲しいんですね?」
フラフラと進むオリィを皆は追った。
ある場所にたどり着くと、オリィからイヌガミが出てきた。ハッと我に帰ったオリィはまじまじと前を見つめた。そこには世界樹の養分を借りて育った大きな木が生えてるのだが、完全に弱って今にも枯れそうだ。
「オマエ、ツヨイ、ツヨイ、マホウ。オマエ、コレ、ナオセル。タノム」
オリィは回復の単一使いである。確かに他の回復使いより強い魔法をとなえられる。
「植物には使った事ないですが…やってみます!」
オリィの周りにはイヌガミや動物、そして他の者も自然と集まり出した。意識がオリィに集まる。
「田道間守、田道間守…不死を求めし神、橘の守り神…祝いたまえ、芽吹く命を…讃えたまえ、不死の光持つこの命を!!」
オリィの手から橙色の光が溢れると、大地と枯れ木に降り注いだ。やがて、木は葉を茂らせ甘い甘い香りの実をたわわに付けた。
「わぁ…!福桃!!」
魔獣や動物たちは嬉しそうに木に登ると、美味しそうに桃を頬張る。それを嬉しそうに見つめていると、イヌガミがより立派な身をつけた枝をオリィに差し出した。
「カンシャ、コレ。ワスレナイ、オン」
こちらこそありがとう…オリィは大事そうに枝をリュックにしまいこんだ。
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
光のマナを手に入れた
Comment
No Comments Yet.