日の元から外れ…
てにをは
日の元から外れ…
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今日は取引先との商談だ。それならば本来、彼自身のギャラリーで行えばいい。しかし、グランはキリエの外を指定した。大切な宝石達を重厚な鞄にしまい込むと、キリエの門へと向かった。
「あ!グランさん!おはようございます!奇遇ですね…」
女性が二人、グランへと駆け寄る。グランは鞄を持ち替えてにこやかに手を振る。
「わぁ…あ!あの!もし良かったら私たちとカフェに行きません?美味しいケーキが売ってるんです!」
グランは酷く残念そうな顔をした。
「なんて魅力的な提案…僕に時間を与えてくれないスケジュールを心から恨みますよ…どうぞ、僕の分まで楽しんでくださいね」
断っても食い下がろうと口を開く彼女の手の甲に軽くキスをすると、颯爽と門へと歩んで行った。
「グランさん!お出かけですか?お1人なら援護致しましょうか!?」
若い門番が元気よく声をかける。
「なんと心強いのだろう。でも、直ぐそこなんです。大丈夫ですよ。お心遣い感謝致します」
気品ある立ち振る舞いに丁寧な言葉、相手を思いやる気持ち…ダークエルフの身でありながら、誰もがグランに声をかける。そしてその結果がどうあれ、相手に不思議な高揚感を与えていた。
キリエから開放されたグランは首元のボタンを外した。大きなサファイアのブローチが重さで少し傾いた。
「演じるのは疲れるであろうな。ダークエルフ」
真っ赤なドレスの麗人が美しい白の馬車に乗っている。ドアを開け、グランに声をかける。
「おやおや、お客様…。これだけ沢山の取引を続けているのに、まだ僕を種族で呼ぶのですか?」
「そうだな。私たちの仲だ…楽にしようか。だから、グラン…お前も普段通りの美しい姿を見せて欲しい」
本当にこの世のものか…と思える程に美しく整った完璧な顔。完璧すぎるあまり…
「まるで仮面だな…」
「なんだ?」
「ああ、いいや…なんでもないですよ。わざわざ出向いて頂けて助かりました。戦うのは面倒で嫌いなんでね」
馬車に乗り込むとキリエを離れて進んで行った。
キリエから離れた砂漠地帯。妙な所に急に聳え立つ洋館…そこへ馬車は入った。メイドに案内され、応接間に腰をかけると、高級品である世界樹の紅茶が振る舞われた。
「…しっかし、僕も変だが…あの客も変だよな…。なんでこんな場所に屋敷を構えた?貴族だったとしても、一人で生きて金はどこから出てるんだか…あれだけの容姿でなんで隠れて生きてるのか…」
「お前と一緒よ…グラン」
背中からおぞましい戦慄を感じた。赤の麗人がいつの間にかグランの後ろに立ち、肩に手を乗せて顔を近づけている。こんな急接近されて気づかない訳が無い…動揺する心を必死に抑える。
「いやぁ、失礼致しました。僕の下らない独り言です。どうかお許しください…」
「普段通りの、姿を…」
「…人の言葉を盗み聞きするのは、悪趣味だな…」
「ふふ、それでいいよ、ダークエルフ。虐げられる魔族の出身。もう既にヒューマノイドとして人権を得ても、その肌、その目、その力を見て皆アサシンと恐れる。酷い話だ…そんなお前が宝石商という地位と信頼が全ての職についたのは、どれ程の苦労だっただろう?」
席に着くと麗人は紅茶を啜る。
「大した事は無い。頭の悪い奴を食って、賢い者と生きる。その審美眼さえあればいい…で?アンタと同じってなんの事だ?アンタは虐げられる存在には思えないが」
「世界は美しさで溢れてる。いや、そうでなければならない。…グランもそう思わない?」
「…は?」
「ふふ…審美眼とやらがあるお前が選んだ石は実に美しい…そこらの名ばかりの宝石商人とは格が違う…。全てがこのダイヤや真珠、アレキサンドライトのように気高く美しく完璧な世界…私はそれを見てみたい…なら汚いものを排除すれば良い…そう昔は思っていたの。でも、もっと素晴らしい方法があると教えてもらった…。それを実践して生きている。けれど、私の考えに賛同しない者もいてね。私はヴィランなのだ…ただ、美しい世界を望んでいるだけなのに…」
…よく理解出来ない。しかし、この話はあまり深く突っ込んではいけない…グランの勘がそう言っていた。
「お気に召したようで…では、支払いはいつもの方法でお願いします。…では」
「ふふ、グラン。私はお前を気に入っている。エルフ族は本当に美しいな。今後とも頼んだよ。これは礼だ…持っていってちょうだい」
グランはメイドに差し出されたオニキスのブレスレットと香水を受け取り、案内されるまま馬車へと向かった。
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闇のマナを手に入れた
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