夜の街にて
米津玄師
夜の街にて
- 11
- 4
- 0
クロエに散々な状況なんて言葉はあるのだろうか?騙され、襲われかけた過去なぞなんのその。きっちり集落へたどり着き、そしてお茶を堪能…沢山の茶葉を買い込んだ。次から麓エリア外で主力商品として売り込んでいこう…そう考えるとワクワクする。
「でもさ、虚しくもなるよね。色々渡り歩いてもさ、どっかで誰かを陥れようと罠を張ってたり、誰かが餌になるんだもん…麓エリアはかなり平和だと聞いたけど、完全な平和なんてないのかな」
キリエへの帰り道、焔の男に返り討ちにされた男が呻きながら倒れているのが横目に見えたが、行きの事もある。今回は静かに通り過ぎる。
「ま、そんな世の中だから、僕みたいなフラフラした子が必要なんだよねー困っちゃうな」
あはは…と一人笑う声が外壁の外で響いた。
「どーも、お茶の街楽しかったよ!情報ありがとねん」
キリエの門までたどり着いた。クロエは真っ黒のサングラスの下、人懐っこい笑顔で門番に手を振る。
「…収穫もあったし、疲れたから今は休もうかな。日も暮れてきたし、遊びに出掛けるのも悪くないよね」
一旦宿へ戻るクロエ。赤く燃えていた空はいつしか燃え尽きたかのような黒へと染まる。クロエは翼を広げると、静かにサングラスを外す。夜の住民、蝙蝠の獣人…しかし、いつも不思議と夜の闇が怖い…。夜とそっくりな翼をたたむと息をフーっと吐き出して、街へと繰り出した。誰にも知られないまま…
夜のキリエ。街は眠りに着いているかと思ったが、思いの外賑やかだ。世界樹の森の田舎町…なんて甘く見ていたな。少しハイになる心を踊らせて、クロエは彷徨う。酒場からは楽しそうな笑い声と蛍石の光が漏れる。数店の飲食店もまだ開いている。出張所は…仕事が終わらなかったのだろうか?やっと今明かりが消えた。
「夏ってなんで夜に独特の香りがするんだろう?僕の時間…でも、夜は何となく苦手なんだよね。一族にはとても言えないけどさ」
夜の空気を泳ぐように進んでいく。妙な雰囲気の人物が、何か人目を避けるように歩いていく…その先はさっきの酒場…。まだ煌々と明るい店内、その人物は酒場を一目すると、フラフラとまたどこかへ消えた。…きっとあの酒場には何かあるんだろう…情報を漁ってもいいが、あの人物の物々しさ、裏社会の存在が噂されてるキリエ…遊びに出ただけの自分では危険すぎるだろう。クロエの勘がそう囁く。んー…と唸ってからクロエはまた今度…と踵を返した。
まだ外にいたい気分。帰って寝てもいいが、何となく物足りない…そんなクロエに声がかかる。
「あの…お兄さん。もし良ければ、今予約が空いています。メンズサロンによって行きませんか?」
少しどん臭そうな猫の獣人が、おずおずとクロエに声をかけた。クロエは困り顔で笑いながら振り返る。
「ごめんねー。僕、こう見えて男じゃないんだ。メンズサロンには入れそうもないかなぁ?」
も、申し訳ありません!と獣人は頭を下げる。その声を聞いて、店から更に派手な人物が現れた。自分以上に性別の分かりにくい、背の高いエルフ…この店の責任者だろうか?クロエに話しかけてきた。
「ごめんなさいねぇ、美しい闇夜の蝙蝠さん。貴女って遠くから見たらまるでイケメンなのよ。うちの子が間違える程のかっこよさだった…つまりこの件は貴女のせいね☆」
「あはは、それはオニーサン…?おねーさん??も同じでしょ?モデルか何か?この街には浮くほどオシャレだよ」
「ふふっ!それって褒めてるのかしら?ディスられてる気もするけど…まぁ、いいわ。ところで貴女、見ない顔ね?旅人か何か?」
「移動販売のしがない旅人。エルフさんみたいな立派な存在じゃないさ」
「ふーん…それにしても綺麗な肌ね?ケアしてるの?」
「いちおーね。接客業だし…それに化粧品も売り歩いてるからさ、自分で試したりもする。後は太陽を避けてるからかなー。サロンの人だから気づくんだね。凄いや」
ニコニコと笑いながら話すクロエを舐め回すように見つめるサロン長…ゆっくり口を開く。
「もし、その不安定な仕事が嫌になったら、いつでもうちに来なさい?貴女とは話しが合いそうだわ…その美貌も…悪くない。どう?働く気ないかしら?」
「わお、出会って当日にスカウトされたのは初めてだな。エルフさん、人を見る目あるね!…でもさ、僕は蝙蝠だから、じっとしてられないんだな。フラフラと思うように飛んでる方が性に合うから…」
どうもクロエを痛く気に入ったサロン長は残念そうな声をあげたが、頷くとこれも商品に混ぜてちょうだい!とサロンの化粧水をクロエに手渡した。
つかの間の夜の出会い。面白い人物もいるもんだとクロエは微笑んだ。
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
闇のマナを手に入れた
Comment
No Comments Yet.