星を伝える者 ステラ
嵐
星を伝える者 ステラ
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商店街から外れた場所、草原地帯、教会の程近く。教会と負けず劣らず静かに佇む建物。それは奇妙な形だった。屋根はなく、ガラス窓があちらこちらにつけられた半球体がまるで頭のように据え付けられている。…さて、夜が耽ける…ニフともう一人、白い髪に白地に黒の鱗模様が浮かぶ羽を持つ獣人…キリエの占い師ウルが、その奇妙な建物へと向かう。昼とは打って変わって、その建物は光を沢山溢れ出している。そして何より…
「やぁ、見て…ニフ。頭が割れてる…きっと彼女はあそこにいるね。でも話を聞いてくれるかなぁ」
あはは…と困った笑い声をあげる二人。半球体が真っ二つに開き、大きなレンズが中から空を覗く…キリエ唯一の天体観測所へ歩んでいく…。
「やぁ、観測所所長?また星の流れを聞きに来たよ。ホロスコープを覗くのに、これほど重要な情報は無いからね」
「お久しぶりです…所長さん。あの、たまには出張所にもいらして下さいね。一応、理事会の関係者ですし…そのぉ…あ、あれ?聞いてますかねぇ?」
様々な望遠鏡が並ぶ中、最も大きな望遠鏡を覗き込む人物。小さな覗き穴は魔具や鏡を通して最後、あの大きなレンズの光を取り込むのだ。それを必死に覗いては、何やら懸命に書き込んでいる。とても二人の声など届いていないようだ。
「…はぁ、やはりタイミングが悪かったのですかねぇ?」
「ふふ、何かに打ち込む姿は素敵だと思うよ。彼女も僕と同じ鳥類の獣人…昼であろうと肉眼で星を捉えられるのに、それじゃ足りないんだ…彼女には」
静かに見つめる二人と、大きな機材に食入る小さな存在。3人の間を夏の夜の香りがそよそよと流れる。
「んっあーー!…疲れた…」
「あ!あの!所長!!」
所長と呼ばれた人物は無表情で振り返る。青に近い灰色は光を浴びると緑に光る。鳥の羽の様な髪色が蛍石のランプに照らされてキラキラ揺れる。
「ああ…君たちか」
そう言うと直ぐにレンズを覗き込む。
「所長?また星の軌道を頂きに来ましたよ」
ウルが優しい笑顔でレンズを覗き込む所長の耳に囁く。すると、彼女はレンズから目を離さず無言で紙の束を差し出した。
「…流石所長。僕もある程度は星を追うけど、ここまで正確に星座の位置を知ることは出来ない…いつも助かります。ここにお金を置いていきますね」
うん…とぶっきらぼうに答える。ウルは挨拶を終えると、ニフに手を振って先に帰宅した。次はニフの番だ…
「あの、えっと…所長?」
「所長なんて仰々しい。僕はまだ成人の身じゃないし、観測所は僕一人だ。たった一人の所長なんて、嫌味だな」
す、すみません!とニフは謝りつつ、書類を差し出す。
「あの…住民票の記載を…協力お願いします」
無表情のまま受け取るとサラサラ書き出す。
「…ずっとこの観測所にいらっしゃるんですか?大学などは行かないので?」
「…僕は人より星が好きなんだ…。僕は我儘と言われても、愛するものの中で生きていたい。無論、努力はする。大学のカリキュラムは郵送で受けているし、僕の研究は理事会にも評価されている。…無理に皆の生き方をなぞらなくて良い…星が僕に教えてくれた。そして星が、僕に生きる道をくれたんだ」
言い終わるとニフに書類を差し出した。
「ありがとうございます…。ステラさん…はい、あれ?性別は女性…かもしれない?」
「身体がそうなんだから、そうなんじゃないか?それだけだ…」
「え、えーっと…女性…と。鳩の獣人。はい…うん、はい!ご協力ありがとうございました。ステラさんの憑神はカラリワリ。氷と情報の魔法を使えます」
ニフの言葉を待たずしてまたレンズを覗くステラ。また心地よい夜風が吹く。もう少し、星を見てていいですか?ニフは静かに問いかけて、ゆっくりと空を仰いだ。
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ステラ 女
鳩の獣人
カラリワリのカミツキ
データを保管致しました。ようこそ!キリエの商店街へ…
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