ようこそ同業者さん
ナノウ ほえほえP feat.初音ミク
ようこそ同業者さん
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「はあーーっ!やっと自由ね!」
移住の手続きを終えて、テトは出張所から解放された。大きく伸びをして、んふーっと息を思い切り吐き出す。あの耳障りな機械音も、煙い空気も、重重いし曇り空もない…それだけじゃない。予定もない、お付もいない、友人も…話した事ある人も…。期待に一気に膨らんだ胸は、不意に自分はたった一人なのだという不安で揺らいだ。自由だ…この言葉はポジティブな意味だけじゃないんだな…何したらいいんだろ…小声でボヤく。いつもなら執事があれこれと予定を押し付けて、やりたいことも出来ないと疎ましく思っていたのに、今は凄く隣にいて欲しい。
『何も出来ないと分かったら、すぐに帰ってこい…』
出て行く時に言われた父の言葉が不安に乗じ頭に響く。
「ふ、ふん!別にいいわ。パパは私の才能を知らないの!後継としてしか期待してないの、知ってるんだから。私は自由なんだから…なんだってできるんだから!」
思わず叫び出すテト。はっと気づくと周りがテトを見ている。灰色のしっぽを震わせ真っ赤になったテトはいそいそと人混みに隠れた。
人の多い方、多い方へと流れていくと、いつしか商店街へ出ていた。…お店が並んでいて、お客さんが自分からお店に来ている…!テトは大富豪の娘ゆえ、買い物等行ったことがない。何故なら求めれば、店から商品を持って来るのだから…。箱入りのお嬢様にはどんな些細な風景も驚きと感動の連続だった。ああ、あの店に置いてあるのはなんだろう?あの子が食べてる物は何?あの商品、もっと近くで見たいな…。頭の中で好奇心が暴れ出すが、体が動かない。…どうして良いのか分からないのだ。全てはテトに対して頭を下げて訪れる。故に、自分から何かに向かう勇気もなければ、生まれついてしまったプライドがそれを許さない。ただただ、指をくわえて遠巻きに見つめるばかりだ。
いつしかテトはキリエの防具屋、スイの店へとたどり着く。テトが最も見たいお店、洋服や鞄、靴、帽子…スイが選んで買いつけた物からスイの手作りまで、テトが見た事のない衣服が所狭しと並んでいる。見たい…でも、行けない…いや…ああ!…けど…言い訳の言い訳の更に言い訳を頭の中で重ねるばかり。ついにテトは腰に手を当ててふんぞり返った。
「やーっぱり田舎ね!ダサいっていうかぁ…見ても良いけど…いえ、時間の無駄になるかも…うぅ…と、とにかく、たまたま通り掛かって、目に入っただけだから!」
「うわぁ!なんてふわふわの綺麗な髪の毛!しっぽも!流石チンチラの獣人…どんな洋服が似合うかな!?」
後ろから声がして、テトはひえぇ!としっぽを逆立てた。振り向くと、この店の店主スイがテトを見て目を輝かせていた。今の聞かれた?内心ヒヤヒヤしていたが、スイはテトの毛並みに興味津々。是非俺の店に来てよ!と誘われ、仕方ないなぁ…と言いながら足早にスイの後を着いてゆく。
「…へぇ!自分のブランドを作るためにキリエに来たんだ!なら、俺達はライバルになるね!はは、なら余計によろしくお願いします!…だね」
「まぁ、そーゆー事になるわよね。当然、都会で培ってきた美的センスは、どこに行っても通用するはずだから負ける気はしないけど…!」
「おー、生意気だな!…うん、でもこのデザインは確かに俺では作れない。すっごく面白いよ!完成したら現物を見たいって思わせる力がある」
…今まで幾度となくプロから相手にされなかった自分のデザイン。遂に店を構える人から面白いと言われた。どれだけその言葉を待ち望んだ事か。
「だよねぇ!皆そう言うんだから」
余りの嬉しさにスイに背中を背けた。泣きそうな自分にも褒めてくれたスイにも嘘をついて誤魔化す。素直に嬉しいと言えないから、代わりの嘘を。
「でも、デザインだけじゃいつまでもブランドは出来ない。作らないとね!待ってて…はい、これ!俺から同業者へ心ばかりの応援!」
袋の中には布が数枚と飾りになりそうな羽や石や金属のパーツが入っている。
「俺の友達が別の街で素材屋をやってるんだ!服に使ってもいいし、売って資金に変えてもいい。好きに使ってよ」
裕福なテトは足りないという事を知らない。施される事も知らない。そして今、自分の足りない部分を施される有難みを知らなかったと自覚した。顔を赤くして、消えそうな声でありがとうと言うと、貰ったものを大事に抱えて歩き出した。
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光のマナを手に入れた
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