虚言の果て
米津玄師
虚言の果て
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キリエの外壁に背もたれて荷物を下ろす。在庫に誤差はない、儲けも計算通り。世界樹の麓エリアのきな臭い動きを知りたくて、長居出来るだけの商品数を持参した。
「そうなると、今度は出て行った時のために他のエリアに売る為の麓エリアの商品を仕入れたいな。ここら辺は世界樹の葉と…蛍石が有名なんだっけ?なら、軽いし需要のある世界樹のお茶がいいな」
門番に手を振って近づく。観光に来たのだが、お茶が美味しい街を知らないか?と質問するクロエ…すると販売目的とは知らず周辺のお茶の穴場を調べて教えてくれた。
「わお、お兄さんありがとう!お茶楽しんでくるよ!」
サングラスの下で微笑み、観光ではなく買い付けに行く商人は手を振って駆け出した。
少し距離がある集落へと、キリエを出て歩き出す。門番がくれたお茶の情報と地図を眺める。
「有難いねぇ…けど、何だかな。正規のルートを無視した買い付けをする僕にこれだけの事をしてくれた彼に対して…」
蝙蝠の身、直視できない日光をサングラスの奥で仰ぐ。…心が痛まないんだ…クロエは呟く。カモフラージュの移動販売は今では趣味みたいなものだ。時に裏社会、時に国、時に理事会…求められるまま情報を漁っては金にする。街から街へフラフラと飛び回るどちら付かずの蝙蝠。動物にも鳥にもなれない生き物、そして僕はその獣人。空気を吸っては嘘を吐く。もうその一つ一つに心は動かない。生活の為、生きる為なんてお涙頂戴は言わない。この生き方が僕であり、これ以外、きっとできないのだ…。
道の途中、汚れた姿の若い女性が倒木の上に一人座っている。厄介は触れない方がいい。知らぬ顔で前を通り過ぎると、裾をぐっと掴まれた。
「た、た、助け…助けてください…!!」
あーあ…と心で嘆いて、いつもの笑顔で振り返る。
「はい?お嬢さん!僕に何か御用?」
聞くと、彼女は愛する男の元へと嫁ぐ為に規律の厳しい故郷から逃げ出してきたらしい。しかし、規律を守らぬ恥晒しを生かしてはおけない…彼女は故郷から命を狙われてしまっているようだ。
「ふーん…で、行きたい街は僕の目的地の手前にある場所…と」
「この道を進む方ならきっと私と行く方向が同じはず…お願いします!連れて行って下さい」
「了解、お嬢さん。僕と一緒に進もうか。お相手さんの街の話も君がいたら簡単に聞けそうだしね」
胸に手を当ててお辞儀をすると白く細い手を彼女に差し出す。コミカルな動きに、怯えた彼女に笑顔が戻る。
時々妖魔に襲われる事もあったが、共に居た彼女のバックアップもあって、道は比較的安全に進んだ。彼女の言う追っ手も現れない…。一行は遂に目的の街が見える程近くへとたどり着く。
「おい…」
やはりそんなに順調に事は進まない。案の定、追っ手と思しき男達に声をかけられた。
「こ、この人達です!どうか…どうか倒して下さい!」
簡単に言うなぁ…クロエは少し呆れたが、男達の形相を見るとこの戦闘は回避できなさそうだ。それにしても…
少し考え事をするクロエに剣が振られる。おっと!と紙一重で交わしつつ交戦する。健闘しているが多勢に無勢…徐々にクロエが押されていく…。
「お嬢さん!渡した道具から回復薬を出してくれ!」
戦況を変えようと彼女へ手助けを頼むが、彼女は渡した道具袋ではなく、クロエの荷物を漁り何かを取りだした。閃光の呪詛…クロエは咄嗟に判断し口早に詠唱する。
「全能に仕えし地獄の闇。黒き翼よ大罪に背きし裏切りの使者!汝が主が許すまで光を殺せ、マンセマット!」
男達と付き添いの女が一同に目を抑えて苦しそうに声を上げる。女の手から呪詛がヒラヒラと落ちた。
「よく出来た話だと思ったよ。僕が蝙蝠だからって光の呪詛を選ぶのもさ…抜け目ないよね。でも、嘘なら僕のが得意かな…残念だけど」
恐らく彼らは仲間なのだろう。信用させた上で旅人を襲う流れ…クロエが溜息をつくと女がもがきながら叫ぶ。
「こ、恋人の話はほんと、本当なのよぉ!わ、私はこいつらに協力しないと彼を殺すって脅されてぇええ!」
息をするように嘘をつく。それに痛みを感じない自分に少し痛みを感じたが、彼女を見ているとなんだか馬鹿らしくなってきた。
「お嬢さん、もうそれが本当なのか嘘なのかなんて…僕には関係ないかな…じゃあね」
お代として彼女のブレスレットをひったくると、毎度あり…という声だけ残して、クロエは消えて行った。
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闇のマナを手に入れた
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