メリュー
十六夜マリオネット
メリュー
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Episode.3 「褪せる記憶と贖罪人形」前編
レイアは、空っぽだった。
世界大戦の後、仕えていた相手が死に、国が滅び。
ただ戦うためだけに生かされていたレイアは、生きる意味を失った。
今まで心を埋めていたものが、レイアを支えていたものが、折れて壊れてしまった。
急激に釣り合いが取れなくなり不安定になったレイアの心が壊れるまで、そう時間はかからなかった。
真っ暗な世界だった。心が空洞になってしまっていた。あったのは、ただただ底のない闇だけだった。
だからといって、死にたいわけでもなかった。
レイアの命が尽き果てるまで、まだ時間はあった。その時間を捨て去ってしまうことは、許されなかった。
目の前で、沢山の人が死んでいったから。まだ生きたかっただろう人間のことも、レイアは殺したから。
だから、奪ったもののためにもレイアは生き続けなければならない。
犯した罪が、レイアを鎖で雁字搦めに縛り付けていた。
そしてレイアは。空っぽの心を埋めてくれるものを見つけた。
若草色の髪を片三つ編みに結った、かつての敵国の人形が、行く当てもなく彷徨っていたレイアに声をかけてくれた。一緒に歩いてくれた。
セレーナ――そう名乗る彼女と出会って初めて、レイアは生きることを義務でないと思えるようになったのだ。
セレ―ナも、同じく空っぽだった。そして、死を望んでいた。救われるために。赦されるために。
セレ―ナは戦場で多くの命を奪った。だから、その償いとして死ななければならない。そうすることでしか、自分の罪は許されない。
レイアと同じ境遇の彼女は、レイアと真逆の考えを持っていた。
深い空洞を埋めてくれる存在が消えてしまえば、きっとレイアはもう耐えられない。
セレ―ナは、枯れ果てていた心にぬくもりと優しさをくれた。ただの道具だったレイアにとって、それは初めてのことだった。
ぬくもりを一度知ってしまえば、手放すことは出来なかった。
ずっとこのままでいたかった。変わらない時が続いて欲しかった。
セレ―ナと出会ってから、灰をかぶったこの世界が綺麗に見えたのだ。
ずっと綺麗なままが良かった。ただの我儘だった。引き止める権利なんて、レイアにありはしないのに。
だから、嘘を吐いた。
以前から存在は知っていた「願いが叶う」と噂される月の塔。そこに行きたいのだ、どうしても叶えたい願いがあるのだ、とセレ―ナを引き止めた。
セレ―ナは優しい少女だった。見ず知らずの人形の願いを、無条件で叶えようとしてくれるくらいには。
そうして、二人は星空の下。塔を目指して歩き出した。
意味もなく理由もない、二人だけの小さな旅だった。
こんな日々が永遠に続けばいい。
それがレイアの願いだった。
アイリスは、空っぽだった。
アイリスには、大切な人がいた。大好きな人がいた。護りたかった人がいた。
彼女は、この世界からいなくなってしまった。アイリスを庇って。
感情のなかったアイリスは、その死を悲しめなかった。心が欠けてしまったような違和感はあったけれど、涙は出なかった。
ただ残ったのは、義務感だけ。
本来あの場で死ぬべきだったのはアイリスだ。だけどアイリスは生き残ってしまった。ならば、あの人の分まで生きなければならない。あの人に成り代わって、彼女が送るはずだった人生を、彼女の代わりに全うしなければならない。
それは贖罪だった。アイリスに出来る、唯一の罪滅ぼしだった。
けれど、アイリスは壊れていた。大戦中に負った傷がアイリスの身体を蝕み、時が経つほどに記憶が少しずつ欠けていった。
大好きだったあの人の記憶も、優しい笑顔も、すべての記憶が霞がかってぼんやりぼやけている。
芽生えたその義務感だけは、消えずに残っていたから。終戦と同時に長かった髪を切り、朧げな記憶を頼りに口調を真似、あの人になろうとした。
優しい人だった。優しくしてもらった。そのことは覚えていたから、アイリスも他人に優しく振る舞った。だけどそれは、完全ではなかった。
アイリスはもっと完璧にあの人にならなければならないのに、記憶が曖昧なせいでそれは叶わない。
だから、月の塔を目指すことにした。蝋燭に炎を灯せば願いが叶う、と噂されている塔へ。
そこで記憶の欠陥を埋め、すべてを取り戻すことを願った。
それが、不完全な人形に出来る精一杯の贖罪だった。
三体の人形が、月の塔の天辺に辿り着いた。
開け放たれた窓から、青白い月光が射し込んでいる。
お互いに叶えたい願いがあると悟ったのだろう、軽く会釈を交わし合う。
大戦中は対立していた国の人形同士とはいえ、流れる空気は穏やかだった。
指令がなければ、殺す必要なんてない。三体はそれをよく分かっていた。それに、アイリスの記憶からは大戦のことも抜け落ちてしまっていたから。
前へと進み出たアイリスがそっと手元の蝋燭に炎を灯し、願った。
「抜け落ちた記憶を、取り戻せますように」
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💍夕陽が落ちる様に胸が染まるので
💠耳鳴りのような鼓動を隠して
🌈バスに乗った僕は言う 君は灰になって征く
💍💠たとえばこんな言葉さえ失う言葉が僕に言えたら
💍💠🌈灯籠の咲く星の海に心臓を投げたのだ
もう声も出ないそれは僕じゃどうしようもなかったのだ
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💍レイア(cv.07)
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💠セレーナ(cv.篠宮.)
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🌈アイリス(cv.しぃな。)
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#十六夜マリオネット
SS:柚乃
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