1人よりも、「楽しい」は皆で
ナユタン星人 / MORE MORE JUMP!
1人よりも、「楽しい」は皆で
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「哎呀ーーーー!!!」
天へと突き抜ける様な叫びがメアリの家から響いた。なんという事だ!何故この日に寝坊したんだ!!寝癖で跳ねる頭を抱えて己を恨んだ。…今日はライブの日。早起きして歌の練習やら踊りの練習をして、ドレスも選んで…ワクワクし過ぎて昨日の夜はなかなか寝れなかった。気晴らしに庭に出て頭を冷やして嘉嘉の皆に思いを馳せた。体が冷えたのでベッドに潜り込んだんだっけ。変な夢を見た気がするが考えている暇はない。コハクの差し入れだろうか?机に美味しそうな肉まんと手紙が置かれていた。
「哎哎…リハの時間ギリギリ!メアリの馬鹿馬鹿!」
急いで着替え、なりふり構わず肉まんをガブリと咥えて家を出た。笑う様な春風が追いかける。ラララ…鼻歌を歌いながらかけ出す足は不思議と軽い。
誰もいなくなったメアリの家。出ていく時にドアを開け放った拍子に吹き込んだ風が、肉まんと共に置かれていた手紙を煽り、床に落ちた。その衝撃で空いた口から手紙が飛び出た。
―メアリ!元気かぁ?私は元気だぞ!観光のお客さんで、南の島でメアリにあった事あるって人が居て、メアリの話をいっぱいしたら会いたくなったんだ!翔華も会いたがってるから、これから向かう。この手紙が届く頃にはきっと着いてるはずだと思う。楽しみだぞ! 真白―
―p.s. 別に会いたいなんて言ってないですの!真白が無理やり連れ出しただけなのだから、勘違いしないで頂戴ね! 翔華―
息も切れ切れ、開店前の酒場に着いた。遅刻したせいでリハーサルは既に始まってはいたが、沢山のバンドやアーティストが笑顔でメアリを迎える。
「ああ!良かった。なかなか顔を見せないから焦りましたよ」
がっちりとした小さな体のドワーフが嬉しそうに声をかけた。このイベントの主催であり、亜人バンドのリーダーだ。早速メアリは渡された楽譜を読み込み、ボーカルのいない楽団とタッグを組んで即席のバンドを結成し、本番を待った。
夕闇がキリエをつつみ出すと、ぞろぞろと酒場にはいつものお客さんが入ってくる。中にはこのイベントを聞きつけたファンや音楽好きの人、キリエの住民ではない人までいる…。嘉嘉の団員が開く大舞台を思い出すようだ。膨れ上がるお客さんと高揚する独特の空気…メアリは胸を抑えた。
「いつもナラ、兄弟弟子がいるネ。1人でショーやってるシ、大丈夫と思たケド…このお客さんにメアリ1人だけヨ…ううう」
バンドの仲間が肩を叩くが、まだ顔見知り程度の相手に緊張する。メアリの気持ちを察したのか、メンバーが集まってきた。
「貴女の声は素敵よ?私たちの激しい音楽にピッタリ。主催に感謝しなくちゃね!さあ、貴女の全力、見せつけてやりましょう?」
種族は様々だが、メアリと組んだ楽団は女性だけで構成されていた。セクシーな雰囲気を存分に漂わせたリーダーがメアリの頭を撫でて囁くと、皆が思い思いに応援を投げかけた。明るい声、可愛い声、かっこいい声…みんなだって凄く素敵ヨ!メアリは真っ赤な顔で微笑んだ。
酒場の簡易舞台からドワーフの声が響いた。メアリ達の紹介をしている。ついに出番が来たのだ。こうなったらやるしかない。メアリはやぁ!と飛び出ると、聞きなれた声がメアリを掴んだ。
「ああ!居ないと思ったらここに居たのね!」
驚いて声の主を探すと、なんと観客の中に翔華と真白が居る。しかも隣には…
「二人とも!?それに、バトンで会った半神の旅人サン!?」
怒り顔の翔華はズンズンと舞台に上がってきた。その後ろを楽しそうについてくる真白と半神。話を聞くとどうやら、遊びに来ると手紙を出したのにメアリは居らず、探し疲れて酒場に寄ったようだ。
「せっかく憂月を連れてきたから、メアリに会えなかったら本当に後悔するところだったぞ!良かったー!可愛い私の妹弟子ーー!!」
真白が嬉しそうにメアリに抱きつく。真白に押しやられながら半神に目を向けると、ニコリと笑って手を振ってくれた。そうか、彼女は憂月というのか。メアリは嬉しくなった。
「ねー!早く演奏しようよぉ!」
メンバーの1人が痺れを切らして声を上げた。メアリはハッと我に返ると、メンバーに駆け寄り何やら相談した。翔華達は舞台を降り出したが、メアリは慌てて声を上げた。
「レディースあんどジェントルマン!メアリと大好きな大好きな仲間たちのスペシャルライブ!聞かなきゃ損ヨ?」
メアリの声掛けに楽団は一斉に楽器を奏でた。その曲に一行は目を見開く。有名で皆が知っているこの曲、楽しくなる明るい素敵な曲。
「楽団の皆も歌うネ!女の子ばっかりバンド…これはもうアイドルユニット!楽しく歌うヨ!」
メアリは遊びに来た仲間と楽団のメンバーの腕を掴んで舞台の中央に引っ張り出した。メアリと仲間達はダンスと歌を、楽団は演奏と歌でパフォーマンス。今までにない多種多様の舞台に、酒場のボルテージは最高潮になった。最後にはイベントに参加した各アーティストが集まって、大演奏。酒場中が歌って踊る中、イベントは終幕した。
「はあ…アイドル…それも楽しいネ…大道芸アイドルとかどーネ?」
悪くないかも!とメンバー達は笑った。各々が帰り支度を終え、酒場を出ようとした時だ。花束を抱えてコハクが拍手しながらメアリに歩み寄った。
「…え?」
「おー?何なに??」
「あ、バトンで話していた彼氏さんだね?」
憂月の言葉に、動揺していた兄弟弟子の二人が素早く反応した。
「ちょ…どういうことですの!!?抜け駆けなんて許されないわ!!」
「わー!こんな面白い事聞いてないぞ!詳しく教えろー」
楽団の皆が笑顔で見守る中、メアリは二人に揉みくちゃにされた。
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酒場で最高のパフォーマンスを皆でお届けしました。
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